[小説:闇に舞う者] part122011年01月10日 17時58分56秒

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マリアーヌの発言により室内が静まり返ってから程なくして、ルワンの注文した魔導具一式が部屋へ届けられた。
装飾の施された箱を無造作に引っ繰り返しすと、様々な動物を象った彫像が転がりだした。
1つずつの大きさは親指ほどと小さかったが、全部で3箱もあったので、足の踏み場がないほどの惨状となった。

「さすがは宝物殿から引っ張り出しただけあって、粗悪品はなさそうだな。」
足下に転がった彫像を見回して、ルワンが満足そうに感嘆の言葉を述べた。
「そう思うなら、もう少し丁重に扱って頂きたい。」
「今から壊れる魔導具を丁重に扱っても意味がないだろ?」
ルワンの魔導具に対する扱いへ呆れていたミシェルは、返された言葉を聞いて狐に摘まれたような表情を浮かべたが、すぐに諦めて重々しく溜め息を吐くに留めた。

床に転がった100個を超える彫像を並べていき、円形の魔法陣を組んでいく。
並べる彫像の数に加えて、動物の配置も決まっているため、捜索と整列の作業を同時に行う必要があり、なかなかの重労働となっていた。
黙々と作業を続けるルワンの背中を見つめながら、マリアーヌがポツリと話し掛けた。
「ティティスさんはルワン様と巡り会う運命にあって、その布石として私と出会ったのだと思います。」
最初に一言に対して、ルワンが特に拒絶の意思を示していない事を確認して、ゆっくりと言葉を続けた。
「私がソフィア様をお訪ねした時、ファンレターの山に埋もれた1通がどうしようもなく気になりました。それの手紙がティティスさんの出した1通でした。」
当時の状況へ思いを馳せるように目を閉じると、胸の前で手を組んで陶酔したような表情を浮かべ始めた。
「私が1通に心を奪われている様子に、ソフィア様がお気付きになられて、文通の取り計らいをして下さいました。それが私達の出会いでした。」
マリアーヌはティティスとの文通を始めてから共通の話題も手伝って、すぐに親友となったことを語りながら、自分の世界へ創り上げて潜り込んでいった。
そんな様子を傍目に眺めながら、ルワンは魔導具の配置を進める手を早め、早々に魔法陣を完成させた。

相変わらず思い出話に浸っているマリアーヌを置き去りにして、完成した魔法陣の中央へ陣取ると、ディーナを呼び寄せて向かい合わせに座り込んだ。
ルワンがゆっくりと瞬きをすると、ディーナの黒い瞳の奥に赤い光が灯り、表情にも覇気が宿り、幼さの強かった印象が一変した。
その瞬間からディーナの動作はルワンと完全に同調して、複雑な印を結びながら難解な言霊を紡いでいく。
段階が進むに連れて、ディーナを中心に魔法陣に紋様が淡く浮かび上がり、最後に甲高い音が鳴ると陣の外周に配置された動物の魔導具まで輝きだした。
魔法陣が完成した事を知らせる音と眩さにより、陶酔していたマリアーヌが現実世界へ帰還させた。

「さて、客人の持ってきた魔石の代用となる魔法陣ができた。あとは魔導力を注げば発動するように仕掛けてある。」
魔法陣の中央をマリアーヌに明け渡し、ルワンは先見の鏡の正面へと陣取った。
「マリアーヌの仕事はその魔法陣を中央で魔導力を注いで発動させる事だ。ついでに鏡の方も同調するから、相当な魔導力を喰われる。覚悟しておけ。」
「はい、頑張ります。」
「ちなみに箱船役も用意してあるから、お前は魔導力さえ提供すればいい。他の連中は見物でもしとけ。」
大雑把な説明を聞き終わると、マリアーヌは目を閉じて意識を集中させ始める。
数秒と立たない内に魔法陣を彩っていた輝きが赤から青へと変化して、先見の鏡に映る鏡像が歪んでいく。
魔法陣から伸びた光がルワンを包み込むと同時に、強烈な輝きが室内を包み込んだ。

眩さが治まるとルワンは姿を消しており、術式が成功した事を見届けたマリアーヌは糸の切れた人形のように崩れ落ちた。
マリアーヌの膝が床へ着くよりも前に、ミシェルが抱き留めた。
魔導具は元の輝きを失ったばかりか、ミシェルが移動した際の風だけで崩れ落ちてしまうほど脆くなっており、灰となって霧散してしまった。
ミシェルは腕の中で寝息を立てている姫君を見つめながら、灰となった魔導具が小国の国家予算に匹敵する高級品である事実を、どの時点で伝えるべきか悩んでいた。

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目を覚まし 澄んだ思考に 安堵する2011年01月10日 20時02分20秒

夜が更けるにつれて、体の奥底から病魔が這い上がってくる感じがしたので、久々にログインしてきた仲間の存在に後ろ髪を引かれながらも、昨夜も体調を気遣って早めに就寝する事になる。
夜が明けて今朝、目覚めと同時に漏れた溜め息は安堵の色に染まっており、3連休の最終日にして頭の中を濁らせていた暗雲が晴れたと喜んでいた。
しかし、起きようとした瞬間に寝汗で湿った体へ冷気が容赦なく突き刺さり、氷水へ放り込まれたような寒さに布団の中へ逆戻りしてしまった。

布団から出ようとする度に突き刺さる冷気の刃との闘争は、朝の冷え込みから呼び覚まされた尿意によって均衡が崩され、小さく悲鳴を上げながら布団から飛び出す形で幕を下ろした。
トイレを済ませる頃になって寝汗の冷たさに慣れるも、放っておけば再び風邪を引いてしまいそうだったし、昨夜は体調不良で入浴をキャンセルしていたので、着替えの前に朝風呂で汗を流すことにした。
僅か1日しか間を空けていないにも関わらず、湯船の中は布団のように心地よくて居眠りをしたくなったが、そんな気分を邪魔するように24時間風呂の装置から怪音を出し始めた。

初めて見る症状に戸惑いながら、ここ最近に忘れていた内部清掃を行ってみても症状の改善されず、病み上がりの体調で水回りの機械整備を行う羽目となり、つくづく運気のない人生だと呆れ返っていた。
試行錯誤を30分ほど繰り返した末に、何とか修理する事ができてホッとすると同時に、湯冷めをしていないか心配したけれど、直前まで湯船で十分に暖まっておいた事が良かったらしい。

それでも大事を取って自室へ戻ると部屋を暖かくして体を休ませ、少しずつ小説の執筆にも着手し始めた。
体調不良から脱した感はあるものの、病み上がりで体力的に万全でないこともあって、集中力が途切れる場面が多々あったけれど、何とか夕方までに公開できる程度まで書きためる事ができた。
今回の連載で第1章が終わりとなることもあって、それなりに気合いを入れて取り掛かったのけど、全体的に駆け足気味で意気込みの割に仕上がりが悪くて、落胆しながら投稿ボタンを押していた。

何にしても連休を丸ごと食い潰した体調不良も過ぎ去ったし、小説の連載も再開できたし、明日から平日4日間をどうにか頑張っていきそうな気がしてきた。

客先の 思い違いで 残業へ2011年01月11日 21時12分58秒

病み上がりの連休明けという気怠さが倍増する空気の中で出勤して、足下から這い上がってくる冷気に寒さ以外の感情を抱きつつ、紆余曲折の末に大幅な残業をする羽目となってしまった。
3連休を丸ごと食い潰す凶悪な病と闘った後遺症は色濃く残っており、可能な限り早めに帰宅したいと願って出勤したのに、気付けば希望通りなら自宅へ到着しているはずの時刻を過ぎていた。
しかも、残業の原因が先方の大きな勘違いとT社員の曖昧な態度にあったため、やるせない気分で帰りの電車へ揺られている。

事の発端はG社長が客先での打ち合わせに出掛けてしまうため、残っていた修正案件の一部をT社員へ委託して出掛けていった事にある。
T社員へ託された案件は細々と微調整の繰り返される面倒な案件であり、全員が同じ案件に関わる珍しいスタイルでの仕事となっていた。
最初にG社長から託された修正を終えて一段落となるはずだったのに、作業完了を通知したメールの返信で「一部のパーツが消えている」と言われ、和やかだった空気が一気に淀み始める。
俺はこの時点から先方の勘違いだろうと言っていたのだが、T社員は確証を得ないままに返事を返すつもりがないらしく、無駄とも思える労力を費やして少ない資料を掘り返していた。

先方の言う消えた部品が年越し前から存在しないと突き止めたけれど、先方からは「今朝まではあったでしょ、ほら」という返信と共に、全く見覚えのないデザインの写るスクリーンキャプチャが送られてきてしまう。
問題のキャプチャの出典も分からないにも関わらず、T社員は先方の幻想を信じて瞑想し始めたところで、G社長が打ち合わせから帰ってきてくれた。
G社長が先方の送ってきたキャプチャ画像の出典を見つけだすと、Excelファイル上で画像が重ねてあるだけというお粗末なオチが付き、やはり先方の勘違いであることが判明した。

以前から何かと思いこみや勘違いの多い客先だったから、こんなオチになるだろうと思っていたのだけど、俺の言葉がT社員へ全く届かなかった事が悔しくもあり、何とも言えない疲労感を抱えての帰宅となっている。

置物の 視線感じる 曲がり角2011年01月12日 21時54分49秒

電車を降りてから会社へ向かう途中に、地主さんの家だと教えられたら納得してしまうような大きな家がある。
土地や家の広さだけでなく手間の掛かりそうな植え込みや何かもあって、不景気なんて言葉が関係なさそうな雰囲気を漂わせている。
そんな家の窓際に出来の良い猫の置物が飾ってあったのだけど、体毛の柄だけでなく姿勢まで同じ品が2つ並んでいるため、量産品のように見えてし折角の高級感が台無しとなっていた。

窓際の猫の存在に気が付いてから、問題の家の前を通る度に何か視線を感じて振り返ると、全く変わらぬ姿勢で窓の外を見守っている2匹の姿があり、軽くホラーな体験をしているような気分となっていた。
そんな折に問題の家の前で母親に連れられた幼児が、窓際に飾られた猫の置物へ向かって、手を振りながら「ニャンニャン、ニャンニャン」と声を上げる微笑ましい光景があった。
そんな様子を横目に捕らえながら通り過ぎた瞬間、微かに司会へ入ってきた猫の配置が普段と違う気がして、言いようのない違和感を覚えながらも引き返して確認するまでもないと、胸のざわめきを無視して通り過ぎた。

そんな一幕が先週末にあったので、今週に入って初めて窓際の置物へ注目しながら歩いてみると、それまでピクリとも動かなかった猫が毛繕いをしていたから驚いた。
もちろんホラーな話ではなくて、あまりにも微動だにしないので置物と勘違いしただけで、柄も背格好も写し鏡のように似ている2匹の猫だっただけなのだが、今でも毎日に変わらぬ位置で同じ姿勢をしているので混乱させられる。
恐らくは朝日の温もりを得るために間痔際へ座り込んでいるのだろうが、あそこまで動かないで居られると生き物と分かっていても、本当は置物なのではないかと勘違いしてしまいそうになる。

元より猫があまり好きでないので注視していなかったと言っても、随分と派手な勘違いをしたものだと、自分の事ながら呆れてしまう。
何にしても問題の家の前を通る度に感じていた視線も、猫が原因だと分かったけれど、首を動かさずに視線を飛ばしてくるとか器用な真似をしてくれたものだ。

犬を連れ 5分ちょっとの 散歩道2011年01月13日 20時33分20秒

ここ最近は冷え込みが厳しくなってきた事もあり、夜になってから犬の散歩へ行くのが辛くなってきたそうで、昼食の弁当を受け取りへ行く際にG社長の飼い犬を連れて行く事となった。
徒歩で片道5分も掛からないので犬の散歩としては距離が短いけれど、本来なら飼い犬の世話をするはずの御両親が不在だし、日中は当然のように仕事があるのだから仕方がない。

散歩をさせる犬が躾のできているのであれば、寒さが厳しさを増す日の暮れた後でも頑張れるだろうが、G社長の飼い犬のユウ君は興奮を抑えて落ち着く事もできないので、体力を無駄に消費するだけで済まないリスクがある。
G社長はそれほど筋力がある方でもないから、寒さで縮こまった体が不意に走り出したりするユウ君の動きへ追いつけず、引き倒されて怪我をする危険性が高かったりする。
それに店の前で大人しく待っている事もできないので、体冷やしすぎてもコンビニに立ち寄って暖まったりもできないため、風邪を始めとする体調不良に陥る危険性もある。

突き詰めていけば飼い犬の躾ができていない事が問題なのだが、犬を飼うと言い出した張本人であるG社長の父親は、躾もろくにできないまま帰国してしまって、この冬はもう戻ってこない予定というから酷い話だ。
仕事をしながら犬の世話から躾までの手間を1人で抱えきれるはずもなく、苦労している様子を見ていると同情の念さえ感じてきてしまう。

そんな事情もあって、弁当屋へ行くまでの片道5分でユウ君の散歩させたのだけど、まるで生まれたての子犬のように自分勝手な立ち振る舞いを見ていると、無性に腹が立ってきて仕方がなかった。
とりあえず、俺よりも前へ行こうとするのだけは注意したけれど、飼い主の腕をグイグイと引っ張っていく姿は、俺の飼い犬なら蹴りを食らわせる所だ。

注文の品が出来上がるまでG社長とユウ君は外で待っていたのだが、何故か一緒に店内へ入ろうとした上に、外で悲しそうな鳴き声を出し続ける醜態まで晒しており、店の中で軽く笑い物にされていた。
店主も他の客も顔見知りだったので悪意のない笑いだったけれど、大きな図体で子犬と同じ行動を取る犬の姿は、飼い主でなくても情けなく感じられて溜め息しか出なかった。
しかも、店の前で大人しく座っている事もできないらしく、通行人へ飛び掛かろうとしたりもしており、「何故に叩いて叱らないのか?」と疑問に思うような場面もあって、やはり優しすぎる事が躾に失敗した最大の要因だと思えた。

イメージと 異なる味で 目が点に・・・2011年01月14日 20時44分27秒

おやつを求めてT社員と共にコンビニへ行った時、ふと売場を見てみると「都こんぶ」の文字が目に付いた。
実は昨夜にネットゲーム上で都こんぶが話題に上っていて、俺だけ食べた経験がなかった事もあって気になったのだれど、会計を済ませた直後だったので次の機会へ回そうと考えていた。
そこに商品選びを続けていたT社員が寄ってきたので、都こんぶを食べたことがあるのか聞いてみると、懐かしいとか言い出してそのままレジへ持って行ったため、買わずに試食できることとなった。

会社へ戻ってからおやつタイムとなったのだけど、都こんぶを食べ始めたT社員が首を傾げながら疑問の声が漏らしていた。
どうしたのか聞いてみると、T社員の記憶にある都こんぶとは食感や味付けが随分と違うらしく、「今の自分には合わない」と残念な言葉まで聞こえて来てしまった。
G社長も試しに食べて疑問符を浮かべていたし、分けてもらってみれば乾物の食感を想像していたのに、歯応えを全く感じられないワカメのような柔らかさで、味わう暇もなく喉を通り過ぎてしまっていた。
味の方も最初に強めの酸っぱさとしょっぱさを感じた後、他の味わいはしつこいくらいに続く余韻によって塗りつぶされてしまい、飲み物で喉を洗いたいとおもうような後味だけが残っていた。

T社員は「思い出が美化されて美味しかったと思っただけかも知れない」とか言っていたけど、コンビニへ置かれた商品だから現代人向けに食感や味付けを改悪している可能性も十分に考えられる。
そうであったとしても今日の一品があまりに不味かったので、再び都こんぶを食べてみたいと思う可能性は完全に潰されてしまった。
今回にしても自腹じゃなかったからショックは小さいけれど、何とも言えない残念な気分での帰宅となっている。

冬に合う 鍋を囲んだ 宴会へ2011年01月15日 22時14分04秒

先週に3連休を丸ごと潰された不調から脱したばかりで、病み上がりの気怠さが抜けきっていなかったし、昼過ぎまで出掛ける予定がなかった事もあって、昨夜は9時頃まで寝ているつもりで布団へ潜り込んでいた。
ここ最近に再び夜更かしの癖が出てしまって、睡眠不足になっていたので寝過ごさないように目覚ましを仕掛けるも、アラームが発動するよりも前に強烈な寒さで目が覚めてしまった。

最初は室温の低さから平日と間違えて目覚めたのかと勘違いしたけど、寝返りを打ってみるとカーテンの向こうが明るくて、時計を見てみれば朝8時を過ぎた頃だったから驚いた。
あまりの寒さに加えて起床する予定よりも早い時間だったので、布団の奥へ潜り込んで丸くなっっていたけど、あっと言う間に時間が過ぎてアラームが鳴り始めてしまった。
気合いを入れて一気に布団から身を起こしてみると、日の出から3時間が経過していると思えない冷気が肌に突き刺さり、再び布団を被りたい症状に駆られるも、既に布団の温もりは何処かへ飛んでいった後だった。

寝起きから何度も「寒い」という言葉を繰り返しながら、午後から執り行われるToda氏の自宅での宴会へ向けて活動を開始した。
Toda氏が急に「鍋をやりたい」とか言い出したため、父親へ頼んで豚しゃぶ用の肉を出してもらったりと、寝起きから慌ただしく急な予定に振り回されていた。
肉を貯蔵するための専用冷凍庫を所有する珍しい家庭だけあって、明日の夕食用だった1kgを譲り受けられたけど、Toda氏の所で宴会をするには量が足りなかった。

豚しゃぶの肉が足りない分を海鮮鍋で補う事になり、初めての試みでは恒例の分量が分からずに悩まされるパターンで、買い過ぎかも知れないと心配しながら宴会が始まった。
海鮮鍋のボリュームが多すぎた影響もあって、休憩がてらに横になっていたのだけど、洗濯物を取り込むために開られた窓から流れ込んできた強烈な冷気が、一瞬にして眠気を凍り付かせてしまった。
休憩を邪魔された上に、体調が病み上がりという事もあって、最後の方は苦しいと感じながらも、何とか買い込んだ食材を全て食べきっての解散となったが、満腹と寒さから帰宅までの行程がかなり辛かった。

[小説:闇に舞う者] part132011年01月16日 17時51分21秒

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虹色に輝く鏡の中へ足を踏み入れると、様々な動物達が両脇を固める色のない道が敷かれていた。
1歩毎に距離と時間を飛び越えていく感触を確かめながら、歩調を変えずに進んでいくと、通り過ぎた先から動物が形を失っていく。
同じ景色の続く前方だけを見つめながら、立ち止まることも振り返ることもせずに歩んでいくと、道行く者を見守ってきた動物の隊列に終わりが見えてきた。
末端の動物を通り過ぎる瞬間も躊躇することなく足を踏み出し、最後の消失を背で感じた瞬間に、虹色だった世界が割れたステンドグラスのように崩れ落ちた。
そして、放り出された世界は深い森の中であり、一呼吸で分かるほど濃密な魔性の香りに、ルワンは懐かしささえ感じている自分に苦笑しながら、ゆっくりと虚空へ手を伸ばすと愛用の武器を引きずり出した。

ルワンの降り立った地はルディア王国が封じる魔性の森の最深部で、俗に「闇の森」と呼ばれる区画に属していた。
魔性の森は大きな魔導力の吹き溜まりであり、広大な敷地の中に様々な表情を持っており、代表的な区画には名称が付けられていた。
闇の森という呼称もその一つで、名称から日差しも届かない鬱蒼とした森林地帯が連想されがちだが、実際は光にも水にも恵まれた和やかな表情を見せる場所もある。
闇は魔物が潜む場所であると同時に、逃げ惑う者を隠す場所としての役割も担っており、闇の森と呼ばれる区画も陰と陽の二面性を持ち合わせていた。
そして、魔性の森を統べる意思は随分と世話焼き性格の持ち主であり、歪められた空間を穴埋めする際に、何処かの隠れ里を引き抜いて取り込んでは守ろうとした。

そういったお節介の積み重ねにより作り上げられた場所こそが、外で闇の森と呼ばれる区画なのだ。
隠れ里の存在を公言しない事は、闇の森の実態を知る者達にとって、暗黙のルールとなっていた。
しかし、隠れ里の住人は何か特殊な能力を持っている種族が多いのだが、怯える生活から解放され、何世代も重ねている間に凶悪化する者達も少なくない。
更に魔性の森が有する溢れんばかりの魔導力が、悪しき方向へ能力を進化させる場合もある。
穏やかな表情を浮かべる闇の森も、やはり魔性の森の一部らしく先に何があるのか分からない混沌に包まれている。

何が出るのか分からない闇の森で、不安よりも期待の方へ胸を弾ませながら、ルワンは虹色の回廊を歩いた時と変わない調子で歩を進めていった。
今回の件に関しては、マリアーヌの見解が的を射ているのであれば、ティティスはルワンと出会う運命あるはずである。
そして、ルワンもマリアーヌが口にした「運命」という言葉を信用していたので、闇雲に歩を進める事へ何の躊躇も感じなかった。
ルワンは神聖視してくるマリアーヌを煙たがっていた反面、気持ち悪いほどの理解者として信頼もしていた。

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期待度が 高い分だけ 厳しめに2011年01月16日 20時41分15秒

「使って/試してみました ゲームグッズ研究所【第251回】- GAME Watch
http://game.watch.impress.co.jp/docs/series/ggl/20101224_416914.html#title1

去年にゲームグッズを紹介する記事で、PSP用の面白そうなアタッチメントが紹介されていた。
その時に見ていた記事が冒頭のリンクで、何となく連打とかしやすそうな気がして、ゲームコーナーへ行くたびに探してみるも巡り会えず、そのまま年を越してしまった。
偶然の出会いを待つのも飽きてきたので、池袋で発注を掛けようとしたら「アクセサリーは発注を受け付けておりません」と言われてしまい、あまり好きでないネット通販での取り寄せる羽目となった。
嫌々ながらAmazonで商品を検索してみるも、在庫切れにより入荷し次第に発送となって、度重なる巡り合わせの悪さに苛々とさせられていた。

数年ぶりのネット通販を行った2日後、某ゲームソフトの予約をするために池袋で寄り道をした際に、何気なくゲームグッズのコーナーを覗いてみると、今まで探して見付からなかった商品が鎮座していたから驚いた。
そのまま購入してもよかったのだけど、帰宅してネット通販の状況を確認したら既に発送済みだった、なんてオチも起こっていそうな恐怖心に負けて、その日は手ぶらで店を後にした。
帰宅後にネット通販の状況を確認してみると、まだ入荷待ちの状況となっていたので発注をキャンセルして、今日の午後から池袋まで足を伸ばして目的の商品を購入してきた。

購入までに紆余曲折があった影響もあって、期待度が紹介記事を読んでいた時に比べて倍増する中で、早速に装着するとPSPゲームソフト「初音ミク-ProjectDIVA 2nd-」を起動して試運転を開始した。
結果は指の座りが良くて確かに持ちやすいのだけど、指の短い俺としては十字キーの↑や△ボタンが遠く感じられて、テストで10分ほど遊んだ感じだと評価が「微妙」なところだった。
何時間かプレイして感覚に慣れてきたら、もう少し違った評価になるかも知れないが、現時点では購入までに掛かった苦労の方が大きくて、無駄に期待度が膨れ上がった分だけ少し落胆気味だ。

意気込んで 出社すれども 空回り2011年01月17日 22時00分15秒

そこそこに大きな案件を抱えているはずなのに、客先からのレスポンスが滞っているため先へ進まず、期限ばかりが押し迫ってくる状況に冷や汗を流している。
今朝になって客先からメールが届いて、ようやっと作業を進められると期待しながら開封してみれば、こちらの提案を打ち合わせの場で説明してほしいとか言い出していた。
時間に余裕がある案件であるなら先方に納得してもらう手間も厭わないが、今回は費用を掛けずスピーディな制作を求められているのに、急かしている当人が作業を止めている矛盾した状況に陥っている。
木曜日に打ち合わせへ出向いて、その場で回答をもらってくる算段となったのだけど、裏を返せば当日まで作業が完全に止まってしまう事を意味しており、どう考えても期限内に完成するとは思えなくなってきた。

予定されていた作業が停滞してしまったので、今日は別件の手伝いへ駆り出される格好となって短期の開発へ従事していた。
他に何かの案件が舞い込んでくる可能性もあるので、可能な限り早めに終わらせたいと思っていたのに、G社長の飼い犬であるユウ君が大人しくしてくれなくて、注意に手間を取らされて集中しきれなかった。
夕食後になってユウ君の方が眠くなってきたらしくて、少し大人しくなってくれた所でようやっとエンジンが掛かって、作業へ没頭していたら軽く21時を過ぎてしまっていた。

G社長が21時を過ぎている事を教えてくれていなければ、今もまだ会社で作業を続けていた可能性も感じられる。
恐らくは遅れ気味の状況を挽回しようと意気込んで出社したにも関わらず、作業ができないフラストレーションと、有り余った気合いが空回り気味に暴走した結果なのだろう。
本題の案件が始動する前に燃え尽きる事のないように、暴走しすぎないよう注意しておく必要があるのかも知れない。