[小説:闇に舞う者] part142011年01月23日 21時39分44秒

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ルワンは複雑な思いを抱えながら、穏やかな木漏れ日の降り注ぐ森を歩き続けていた。
「戦いの中にのみ生きる者」という宿命を背負わされて、常に何かの騒動へ巻き込まれ続けてきた少年にとって、穏やかな風景は何処か居心地が悪く感じられた。
今回は人探しというミッションへ就いているので、探し人の安全を考えるならば、戦火の気配が感じられない状況は歓迎すべきであった。
しかし、ルワンの背負う宿命は時に歴史を捻じ曲げる程の影響力を持っているため、この先も穏やかな展開が続くとは思えなかった。
次に災厄が巻き起こる事を前提として考えるのであれば、焼け野原から物語が始まってくれた方が展開が読みやすく、突発的な襲撃なども少なく安全だったかも知れない。
穏やかさな風景を素直に安全と結び付けられない自分は、人探しというミッションに向いていない人種だと再認識しながら、心の中で何度目かも分からない溜め息を漏らした。

先の展開が読めないまま、森の中を歩いていると、木漏れ日の中に不釣り合いな黒い気配を捉えた。
次なる展開へ対する期待から緩んでしまった口元を正しながら、気配のした方へと真っ直ぐに向かっていった。
問題の気配は最初に見付けた場所から距離がある上に弱々しくて、普段なら見落としていた可能性もあるほど微かにしか感じ取れなかった。
それでも1度でも見付けてしまえば、白紙に着いたシミのような感じで、意識さえ逸らさなければ見失う事はなかった。

穏やかな風景に1点だけ不釣り合いな気配を帯びていた主は、老木の洞の中へ隠れた小柄な少女であった。
意識を失っている所に何かが取り憑かれたらしく、獣のような呻り声を上げながら、塗料を流し込んだような赤一色の瞳で睨み付けてきた。
ルワンが老木の前に屈み込んで、少女を洞の中から引きずり出そうと手を伸ばすと、小柄な体は弾丸のような勢いで飛び出し、目を狙って爪を突き出してきた。
ルワンは突発的な攻撃に怯むこともなく、軽く体を傾けて爪を避けると、飛び込んできた小さな体を捕まえて、素早く地面に押し付けて身動きを封じた。
馬乗りの体勢から相手の両手を足で押さえると、両手で顔の位置を固定すると同時に、瞼が閉じない指を添える。
体勢が整ってから目を閉じると、小さな敵を相手に練った僅かな魔導力を目に集中させていく。
瞼の隙間から漏れた魔導力の輝きに怯えて、藻掻きだした少女の目を真っ直ぐに見つめながら、ルワンはゆっくりと開眼していった。
強い魔導力によって威圧感の増した強烈な視線は、少女に取り憑いていた何かを一瞬で払い落とし、瞳を染めていた塗料の様な赤が抜け落ち、呻り声は寝息へと変わっていった。

ディーナを呼び出して残された足跡の追跡を任せると、ルワンは傷の手当てを施しながら目覚めるのを待っていた。
少女の外見年齢は8歳くらいで、栗色の髪を肩口まで伸ばしていた。
何より特徴的な容姿は人間と同じ耳を持ちながら、頭の天辺に猫と思われる動物の耳が生えている事だった。
統計的に見て、4つ耳の種族は特殊な容姿に加えて、希な潜在能力を秘めている確率が高いため、魔術の生け贄や奴隷として乱獲の対象とされる場合が多い。
そういった事情から考えて、保護された少女が隠れ里に住まう種族の一員である事は間違えなかった。
展開の先行きがきな臭くなってきた事に対して、ルワンは「俺らしくなってきた」と不謹慎と思いながらも、笑みを浮かべていた。

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