[小説:闇に舞う者] part682012年06月24日 18時25分13秒

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地下牢を後にしてから目立った異常のないことを確認しながら、食料庫を探して回った。
食料庫は魔法で運用される植物プラントとなっており、千人単位の食料を安定供給できる体制が整っていた。
こういったサービスも魔族と対決まで保証される安全確保の一環であり、契約が機能している証拠となる。
そのため休息へ入る前に確認しておく必要があった。

食料庫へ入るとディーナが瞳を輝かせながら飛び出し、ルワンへ物欲しげな視線を向けてきた。
その表情に呆れつつ、右手で「好きにしろ」というサインを送ってやれば、満面の笑みを残して飛び立っていった。
「俺は3階の部屋へ行っているから、腹を壊す前に戻って来い。」
果物の山を前にして目移りさせている小さな食いしん坊の背中に呼び掛けると、縦方向の旋回で了解したとの合図が送られた。

ディーナと別れてチェルニーとティティスを寝かせた部屋へ戻ると、変わらず穏やかな寝息を立てていた。
「どいつもこいつも気楽だな。」
小さく溜め息を零してからベッドの反対側にソファーを見付けて、そこを寝床と定めて横になると眠りへ落ちていった。

ルワンが視線と話し声に気付いて目覚めると、布団から半身を起こしたチェルニーとティティスの姿があった。
「おはよう、お兄ちゃん。」
ルワンの目覚めへ最初に気付いたのはチェルニーだった。
ティティスとの会話を中断して元気に手を振ってきたので、ルワンも気怠そうに右手を軽く振って応えてやる。
「おはよう。」
ティティスが少し遅れて挨拶してくるも、異様に嬉しそうな表情を浮かべており、ルワンは不愉快そうに眉をひそめた。
「なんだ、その妙に嬉しそうな顔は?」
「寝顔を見せてくれるなんて、凄く信用されている証拠なんだって。だから、嬉しくて仕方ないみたい。」
チェルニーが知ったばかりの知識を披露したいらしく、ルワンの質問へ嬉々とした表情で答えた。
「なるほど、理解した。」
額を抑えながら溜め息混じりに言葉を吐き捨てると、軽く首を回してから立ち上がる。
「お前達への信用じゃない。信頼する物達が選んだからこその信用であって、直接的な信用じゃない。あまり勘違いしてくれるな。」
「信頼しているって、ディーナちゃんの事?」
チェルニーがテーブルの上で眠っているディーナへ視線を向けたが、ルワンは首を横へ振って否定する。
「お前等の持っている魔導具、つまりはチェルニーが持つアリシアリスと、ティティスが持つルアル・ソリテルの事だ。」
ルワンに言われて、与えられた魔導具を右手に握って不思議そうな表情を浮かべた。
「夢と現実の区別が付いていないようだが、お前等はその魔導具のマスターに選ばれ、仮契約の状態にある。」
この言葉を聞いた時、2人の少女は揃ってキョトンとした表情を浮かべて、ルワンがその反応に溜め息を漏らした。

「昔に俺の戦友が傷付いて倒れた際、本人の希望で魔導具へと魂を封じた。そうして出来上がった魔導具をお前達が手にしている。」
「つまり、これは外法魔導具って事?」
割り込んできたティティスの質問へ静かに首を縦に振る。
「外法魔導具って?」
「作るべきでない魔導具。禁術の指定こそ受けていないけど好ましくない。禁止すべきと訴える人もいるわ。」
ティティスが魔導具へ視線を落としながらチェルニーの疑問へ答えた。
「本来の姿を捨て、道具として生まれ変わったが、魂は今もなお生き続けている。俺の大切な仲間としてな。」
ベッドに座ったまま、2人の少女は各々が手にした魔導具へ視線を落としている。
チェルニーは不思議そうに表情で、ティティスは何処か悲しそうな目をしていた。

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