[小説:闇に舞う者] part432011年08月21日 20時26分48秒

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チェルニーが色彩の消えた世界で優しい光を放つ壁と対面している時、ティティスは目の前で起きている現象に言葉を失っていた。
障壁へ拳を叩き付けていたチェルニーの動作が徐々に鈍くなり、それに伴って目の焦点も定まらなくなっていった。
ついに心が壊れてしまったのかと背筋に冷たい汗を感じながら、ティティスは相変わらず見守る事しかできなかった。
チェルニーの動きが完全に止まると、その口元から青白い光の粒が零れだして、点滅しながら飛び回る様子は蛍を連想させた。
チェルニーの呼吸に合わせて青い蛍は増え続けて、少女を守る結界の中で所狭しと飛び回る姿は幻想的で感動さえ覚えた。
青い蛍がチェルニーの生み出した魔導力の結晶だと感じ取れたため、ティティスは幼い心が壊れていないと分かって安堵した。

ティティスが僅かに緊張を緩めた瞬間、チェルニーの生み出した青い蛍が一斉に輝きを強めて、それまでとは違う統率された動きで旋回を始めた。
不意を突かれ慌てるティティスを尻目に、青い光を放つ魔導力は次々とルワンの作った障壁に飛び込み、波紋となって溶け込んでいく。
何が起きているのか予想もできないまま固唾を飲んで見守っていると、チェルニーを囲う結界に変化が現れ始めた。
地面から生えた半円状の障壁が徐々に迫り上がるような変化を見せて、5秒と掛からずに球体の結界へと変形していた。
結界の変形が完了すると、チェルニーがゆっくりと意志の宿った目を開いて、大きく深呼吸してから前へと歩き出した。
球体への変形を遂げた結界はチェルニーの歩調に合わせて回転しながら移動していく。
目の前で起こっている現実に対して、ティティスは「有り得ない」と呟く事さえできずに呆然としていた。

ルワンが作っていった結界は防御力と耐久性に特化した移動しないタイプと考えて間違えなかった。
結界が攻撃を受けた際に生じる反動は、基本的に魔法の核として中心へ据えられた魔導具へ掛かってくる。
固定式の結界の場合は反動を魔導具から障壁へ伝えて、最終的に大地へ逃がす工夫を施せるため、魔導具へ掛かる負担を考慮せずに設計できる。
そのため固定式の結界は移動式に比べて格段に強度を高められる。
ルワンの敗北がそのまま全滅へ繋がる今回の状況において、強度を弱めてまで移動という逃げの一手を講じる意味はない。
移動式を組み込み意味がないのなら変形という仕掛けを施したとは思えず、チェルニーが変化させたとしか考えられなかった。

魔導の初歩的な知識さえ持ち合わせていない少女に、魔法を書き換えるという高等技術が備わっているはずがない。
まして、他人の魔法に干渉して書き換えるという行為は、ルワンの知識と実力を持ってしても不可能なレベルの話であった。
それ故にティティスは目の前で繰り広げられた現象に対して、「有り得ない」としか言い表せず、驚愕のあまり言葉さえ失った。

チェルニーが移動を開始して3歩目を踏み出した所で、ルワンも異常に気付いて振り返り、同時に目を見開いて驚いた。
しかし、驚愕して動きを止めるような下手は打たずに、チェルニーの両親を受け流しながら、予想の範囲内にある出来事を装った。
「チェルニー・ウィドール。」
今まで最大となる声量を持って、背中越しにチェルニーへ呼びかける。
広い部屋へ響き渡る大きな声に、小声さえ聞き取る聴力を持つ少女は驚き、前へ進めていた足を止めた。
「俺を信じて待っていろ。」
続けて吠えるように叫ぶと同時に、闘気の輝きを一段と強めて戦力を誇示して見せた。
その気迫に打たれた事で、チェルニーは記憶から抜けていた今までの経過を思い出した。
我に返った地点でそのまま腰を抜かしたように座り込むと、結界は再び変形を始めて固定式の形態へ戻っていった。

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