[小説:闇に舞う者] part442011年08月28日 20時54分20秒

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チェルニーが我を取り戻して座り込む瞬間、ルワンは変形する結界に7割ほどの集中力を傾けて観察していた。
自分の作った結界に何が起きているのか知り、チェルニー達の持つ特殊能力を理解する重要な手掛かりとするためである。
結界が変形する挙動は注意深く観察してみても不自然な点が全く見られず、まるで最初から備わっていた機能のように思えた。
何よりも驚くべき事は結界の変形を実現している術式の種類で、ルワンが同様の機能を実装する際に使うだろう物が組み込まれていた。
あまりにも自然に変形の術式は組み込まれており、魔法を間違えて構築したのではないかと疑いたくなるほどだった。
ルワンの場合は術式を組む際に魔導書に倣っていないため、本を取り間違えるミスから魔法を作り間違える事は有り得なかった。
それでも疑いたくなるほどに結界は自然な所作で変形を遂げており、他人から伝え聞いていたら信じなかったかも知れない。

チェルニー達が持っている特殊能力を「他者の魔法に機能を追加する力」と推測していた。
通常であれば「有り得ない」と笑われる推測だが、チェルニーの結界が変形する所を観察した事で、ルワンは確信を持っていた。
魔法が書き換えられる課程について考察している暇がなかったが、現状における利用価値は十分にあった。
何故なら魔法を書き換える際に知識や技術が全く必要とされず、目的さえあれば改修方法が自動的に決定されると推測されるからだ。

他者の魔法へ干渉する能力を持っていると仮定した上で、ルワンはチェルニーの両親を止めるための作戦を練り上げる。
現状で彼等の意志は魔獣に乗っ取られ、その魔獣はヴァンに支配されている状態にある。
魔獣を支配する権利者として、ヴァンよりも宿主が上位に立つことができれば、ひとまず無益な戦闘を止める事ができる。
曖昧な仮定を積み上げられた作戦であるにも関わらず、ルワンに迷いは全くなく、自信が闘気を力強く燃え上がらせていた。
闘気の高まり以上に迷いの消えた精神状態が大きな影響を与えて、魔導力の制御が戻った事で作戦の幅を一気に広げられた。

まず最初にチェルニーの両親に対して、一方的にでも語り掛ける手段を用意する必要があった。
その方法としてティティスが神域の対話と呼んでいたスキルの応用して、言葉を込めた魔導力を打ち込む方法を発案した。
印を結びながら言葉をイメージとして魔導力へ練り込み、可能な限り攻撃力を落とした柔軟性の高い闘気を生成する。
結ばれた印に魔術的な意味はなく、その形が象徴する意味合いを意識することで、言葉を効率的に魔導力へ練り込む手助けとした。
最初に練り込んだ言葉は彼等の愛娘の名前である「チェルニー」とした。

言葉を練り込んだ魔導力を目標へ届けるパイパスについては、魂に根付きながら都合良く顔を出している魔獣を利用した。
魔獣の個体によって魔導力の浸透率に差が出ると予想されたため、全ての魔獣に1度ずつ打ち込んで様子を観察する。
傍目に見ている分には一進一退の攻防といった具合に見えるようにしつつ、調整を繰り返しながら的を絞っていく。
攻撃性の高い闘気という魔素を持つルワンにしては極めて地味な作業だったが、新たな可能性の模索を楽しんでいた。
試行錯誤を繰り返した回数が20回を数えた辺りから、魔導力を打ち込んだ直後に一瞬だけ動きが鈍る場面が現れ始めた。
その反応に思わず笑みが零れそうになるのを堪えながら、試しに「ティティス」と別の単語を込めて打ち込んでみる。
彼等にとって意味にない単語への反応は極端に鈍くなり、ルワンの込めた言葉が通っていると確認できた。

言葉を伝える手段が確立したところで、一進一退の攻防を一転させて、ルワンの攻撃一辺倒の展開へ切り替える。
単語に区切りながら連続して言葉を込めた魔導力を押し込んでいく。
「魔獣の支配権は宿主が持つもの、意志をしっかり持って自分を止めてみせろ。さもなくば、その手で愛娘を殺める事になるぞ。」
魔獣の支配権についての件は、他者の魔法へ干渉する特殊能力を発動させる足掛かりと盛り込んだ嘘である。
その嘘を信じて魔獣が宿主へ従うように召喚魔法へ干渉してくれたなら、味方にならないまでも攻撃の手を止められるはずである。

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