[小説:闇に舞う者] part192011年02月27日 20時56分09秒

初めての方はこちらの記事からお読み下さい。
http://crimson-harberd.asablo.jp/blog/2010/09/20/5357805

チェルニーが指さした小屋を確認すると、ルワンから指示を聞くまでもなくディーナが偵察のために飛び立った。
「あそこは祭壇の他に何もないよ?」
「少し嫌な予感がするから調べるが、何もないならそれでいい。」
チェルニーの疑問に答えると同時に、人差し指だけを立てた右手を口元に当てる仕草で静かにしているように促した。
村の中を注意深く見回してみると、所々に人の身の丈を超える大きさの蜘蛛が動き回っている様子が見て取れた。
モンスターの個体数はおよそ20体、時折に立ち位置を変えていても、村から出て行く気配は感じられなかった。
獲物を探しているというより、目的を見失ったまま待ち惚けをしている感じで、警戒網の隙間を走り抜ける事も簡単に思われた。
他にも破壊された家屋が見当たらないなど、攻撃性を感じさせない低レベルさが見て取れて、隠れ続けて難を逃れた村人が居る可能性さえ残されていた。
恐らくは動く動物を発見したら生け捕りにして連れ去るといった単純な命令しか与えられていないのだろう。
今も村に居座っているモンスターにしても、獲物を捕まえられずに、帰還する命令が実行されずに残っているだけと推測された。

ルワンがモンスターの観察を終えた頃にタイミング良くディーナが戻ってきて、差し出された手の平へ舞い降りる。
チェルニーから送られた出迎えの言葉に笑顔を返すと、足場となっているルワンの手に額を押し当て、情報を譲り渡す姿勢に入る。
ディーナから情報を伝達されるに従って、ルワンの眉間にしわが寄り始めた。
「念のために聞くが、お前の村に緑色の髪を後ろで束ねている女は居るか?」
「いないよ。」
チェルニーが首を振りながら答えると、ルワンは最初から答えが分かっていた様子で溜め息を漏らした。
「あの小屋にな、女が居るんだ。それも暢気にも本を読んでいやがる。」
「外にモンスターが居るのに?」
「そうだ。しかも、埃の積もり方から見て、扉から入ってきたとは考えにくい。」
混乱した様子を見せながら、チェルニーは自分なりの答えを考えようと努めていたので、ルワンは少し様子を伺っていた。
「もしかして、お兄ちゃんが探してる人?」
「恐らく正解だろう。服装やら容姿も聞いていた通りだ。」
「早く見付かって良かったんじゃないの?」
探していた人が見付かったにも関わらず、ルワンが渋い表情を浮かべているチェルニーは首を傾げていた。
「見付かった事は良しとしても、タイミングが悪い。連れ帰る方を優先すれば、お前の村は放置になる。逆に救出を優先すれば、迷子を巻き込む事になる。」
聞きながら表情を曇らせたチェルニーの頭に、ルワンが手を置いたかと思えば、優しく撫でるでもなく押し潰してきた。
「心配するな。」
押し潰していた力を緩めて、やや乱暴に頭をなで回してやると、少女が頬を膨らませながら見上げてきた。
「受けた依頼は最後までやるさ。それに聞いた話の通りなら、迷子の方も自分から首を突っ込んでくるはずだ。」

次へ
http://crimson-harberd.asablo.jp/blog/2011/03/06/5726262

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
「このブログはどんな空間でしょう?
 ひらがな4文字でお答え下さい。」

コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://crimson-harberd.asablo.jp/blog/2011/02/27/5710540/tb