[小説:闇に舞う者] part182011年02月20日 19時57分27秒

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背の高い木々が続く森の奥深くに、ひっそりと佇む背の低い家並みが見えてきた。
チェルニーの村を囲っている木製の柵は、高さが1mしかなくて、外部からの侵入を拒むと言うより村の境界線を示すために設けられているようだった。
遠目に見る限りでは煙が上がっている様子もなく、損壊した柵も見当たらないため、モンスターの襲撃を受けたように見えなかった。

ディーナの偵察により知り得たモンスターの情報から、警戒網の広さを推測しながら村へ近付いていく。
安全に村を観察できる範囲内で手頃な高さの木を見付けると、虚空より棍を取り出した。
村が見えてから緊張した様子で押し黙っていたチェルニーだが、ルワンが武器を召喚する様子を見てると「おお」と小さな声を上げる。
棍を取り出す姿は何度か見せていたのに、魔法の片鱗を披露する都度に見せる相変わらずの反応から、チェルニーの部族は魔術を全く知らないのだろうと知ることができた。

目指した木の所まで来てから棍を鎖鎌へ変形させると、予想していた通りにチェルニーが目を輝かせて食い付いてきた。
「すごい、消えるだけじゃなくて形も変わったりするんだ。」
興奮を隠せないと言った様子で言葉を漏らすと、鎖の部分を指で突っついたりしながら興味津々に観察していた。
「九龍棍は棍や鎖鎌を含めて9つの形状に変形する。ディーナの衣装も一緒に変化する要らん仕様は九龍棍を作った鍛冶屋の趣味だ。」
愛用の武器を解説しながら、衣装が変化すると同時に恥ずかしがって後頭部に隠れていたディーナを引っ張り出した。
先ほどまでのワンピースドレスがくの一装束へ変わっており、足先まであった長い髪も首筋の辺りで切り落とされていた。
チェルニーがディーナの変化に対して「可愛い」だの「格好いい」だのと褒め言葉を並べていくと、恥ずかしがり屋の妖精も気分が良くなった様子で、要望に合わせてポーズを取ったりしていた。

チェルニーの興味が武器から外れている隙に、ルワンは手頃な枝へ向かって鎖鎌の分銅を投げて鎖を絡み付かせていた。
「遊びは終わりにしろ。木の上から村を見るぞ。」
発言を聞いた瞬間、チェルニーの猫耳が敏感に反応したかと思えば、振り返り様にルワンの胸へ飛び付いてきた。
好奇心が滲み出して、輝いてさえ見える少女の瞳は、高い所が苦手かどうか確認するまでもなかった。
上まで連れて行ってもらえると確信して、飛び付いてきた様子に呆れながら、チェルニーを抱え直しながら鎌に足を掛けた。
鎖を掴んだ右手で体を支えながら、刃が食い込まないよう調節してやる。
体勢が安定した所で鎖を収縮させて、分銅が絡まった枝までエレベータのように上がっていき、太めの枝の上に腰掛けた。

ルワンが眼下の様子を確認している間、チェルニーも一望できる村を静かに見つめていた。
村を囲っている柵は東北の方角に破壊された箇所がある以外に、門と思しき場所が見当たらなかった。
「村の外へ出る事を禁止していたのか?」
「うん、村から出ちゃうとね、2度と戻れないの。たまに子供が面白半分に柵を乗り越えて、そのまま居なくなる事があるの。」
そう語りながら瞳を曇らせる様子から、頻繁に行方不明者が出ていたのだと推測しながら、その一方で嫌な予感がしていた。
「村の何処かに『開かずの扉』はないか?」
「う~ん、守り神が住んでいる家があって、そこは収穫祭の時にしか開かないかな?」
悩みながら答えると同時に、村の中心に当たる場所に佇む小屋を指さした。

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空腹を 感じぬままの 日が暮れる2011年02月20日 20時10分04秒

今日は昨日ほど風が強くなかったので過ごしやすいかと思ったのに、厚い雲が完全に日差しを遮っていた影響で気温が上がらず、北風の冷たさが身に染みる天気となっていた。
散髪へ行きたい以外に出掛ける用事がなかったし、昨日の通院で長い待ち時間を使って小説の下書きもしてあるため、午前中は存分に惰眠を貪ったりアニメを見たりとゆっくりとしていた。
問題と言えば、病院の待合室にあるソファーが体に合わなかったらしく、酷い腰痛に悩まされていた事くらいだった。

朝食をシリアルフードで簡単に済ませたこともあり、空腹を感じたら散髪も兼ねて出掛けて来ようと思ったのだが、のんびりと生活していた影響か14時を過ぎても腹が減ってこなかった。
この調子では空腹を感じないまま夕方を迎える気がしたので、散髪のためだけに外出する決心をするも、着替えている途中でコミックを読み始めてしまい、思い立ってから家を出るまでに30分も経過していた。

面倒臭がりで身なりに気を遣う方でもないので、カットのみ千円でやってくれる床屋を愛用しているのだけど、生憎と近所にないため隣町まで自転車を走らせてきた。
目的の床屋はデパートの一角に入っているため、駐輪スペースが足りなくて毎回のように困らされるのだけど、今日は普段よりも自転車が溢れかえっていたから驚いた。
かつて違法駐輪の数が全国ワースト10に入っていた地域なのだが、不名誉な称号を返上すべく行政が動いてから数年は減っていたのに、今日の有様は過去の異常さを彷彿とさせる酷さだった。

僅かなスペースへ自転車を押し込んでから床屋へ入ると、待ち行列に3人しか居なかったために、小説の下書きを始める暇もないままに順番が回ってきてくれた。
下書きした小説を読み返すくらいの時間が欲しかったので、微妙に残念がりながら散髪を済ませて、空腹を覚える事のないままに帰宅する事となる。
床屋で使う千円札を作るためにコンビニで肉まんを購入したので、物が入っているから少し時間をおけば空腹を感じるかと思って、本屋で時間を潰したりもしてみたけど無駄になってしまった。

あまり体力を使うような生活ではなかったから、空腹を感じなくても不思議ではないのだけど、何か体調が悪い影響だったりしないかと少しだけ不安を感じる。