[小説:闇に舞う者] part352011年06月26日 18時22分36秒

初めての方はこちらの記事からお読み下さい。
http://crimson-harberd.asablo.jp/blog/2010/09/20/5357805

見上げる首が痛くなるような高い天井の玄関ホールへ進んで周囲を見渡すと、正面の大口を開けた通路にだけ明かりが灯っていた。
広い屋敷に感嘆の声を漏らす女性陣に目配せをしてから、躊躇することなく明かりの灯っている通路へ足を進めていく。
通路の道幅は馬車が通れそうなほどに広くて、3人で並んで歩いても十分な余裕があった。
幾つもの扉を完全に無視して先へと進むルワンに対して、チェルニーは豪華な内装に目を輝かせながら忙しなく周囲を見回していた。
「すごいね。こんな屋敷に何人の人が暮らしているのかな。」
チェルニーが漏らした疑問に、ルワンがほんの少しだけ視線を向けたが、何も言わずに視線を正面へ戻してしまった。
ルワンの反応を気にして見上げていると、暫くして困ったような視線を投げつけられた。
「この屋敷で200人以上の人間が殺されている。それ以上は知らんし、興味もない。」
大勢の人間が殺されているだろう事実を聞かされた瞬間から、チェルニーの目に映る豪華な屋敷は全く別の色合いを帯び始めた。
豪華な装飾の裏に隠されていた殺伐とした雰囲気を嗅ぎ取った事で、恐怖を感じてルワンのベストの裾を思わず掴んでいた。

長い通路を進んでいくと、大扉の開け放たれた大きなパーティーホールが見えてきた。
人気の感じられない大扉の向こうから音楽だけが響いてきて、幽霊屋敷を連想させる不気味さが滲み出していた。
パーティーホールへ辿り着いた所でルワンが立ち止まってから、服を掴んでいたチェルニーの手を払い除けた。
戦闘が始まる予兆を察知して、チェルニーが静かに後退ると、ティティスが「大丈夫」と声を掛けながら抱き留めてくれた。
チェルニーがティティスに身を委ねる同時にルワンが床を蹴って、開け放たれた大扉へ突進して九頭棍を突き立てた。
ルワンの1撃によるダメージは戸板よりも金具に大きく現れて、何度か軋んでからゆっくりと倒れ始めた。
片側の戸板が倒れ始めた所でもう1枚に対しても同様の攻撃を仕掛けて破壊した。

「壊されたくないから開けておいたのに、少しは空気を読んでおくれよ。」
2枚の戸板が倒れた直後、パーティーホールの奥から聞き慣れない声が響いてきた。
「俺一人なら気にしないが、大きな荷物が2つもあるんでね。避難ルートを確保させてもらった。」
ルワンが返事をしながら前へ出ると、ティティスはチェルニーの頭を軽く撫でながら前へ出ると、一足先に後を追い始めた。
チェルニーも急いで歩き出すと、ティティスが「少し離れて歩こうね」と囁かれたので、疑問を感じながら指示に従った。
3人がパーティーホールへ入ると、一番奥にある壇上に貴族らしい装飾だらけの衣装を纏った男性が立っていた。
年の頃は20歳前後と若く、やや長めの金髪を整髪料で固めて着飾っている割に、顔の造形は今一つ良くなくて残念な感じだった。
「僕の名前はヴァン、この屋敷の主だ。こんな辺境の地での客人も珍しいし、歓迎してあげよう。感謝すると良いよ。」
大袈裟なポーズを取りながら高らかと語りかけるヴァンに対して、ルワンは平然と背を向けると後ろの2人を見据えた。
「アリシアリス並びにルアル・ソリテルに命ず。護れ。」
ルワンが言霊を紡ぐと同時に、隠れ里の小屋で手渡した魔導具が光を放ち始め、それぞれを包む半円状の防御壁を形成された。
「相当に強力そうな防御結界のようだね。君が強い人間だってよく分かる代物だ。実に素晴らしいじゃないか。」
「お前の殺気に応えて準備をしてやっているのに、戯れ言を吐くとは見た目以上にウザい奴だな。」
ヴァンの方へ視線を戻しながら吐き捨てた。

次へ
http://crimson-harberd.asablo.jp/blog/2011/07/03/5941234

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
「このブログはどんな空間でしょう?
 ひらがな4文字でお答え下さい。」

コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://crimson-harberd.asablo.jp/blog/2011/06/26/5929484/tb