[小説:闇に舞う者] part33 ― 2011年06月12日 20時29分13秒
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http://crimson-harberd.asablo.jp/blog/2010/09/20/5357805
ルワンが無造作に引き摺っているバルディッシュは易々と地面を削り、歩き出した場所から幅5cmほどの溝を作り続けていた。
チェルニーはルワンの背中に追い付いてからずっと地面を削る大斧が気になっていた。
しばらく凝視していると、斧の刃を包む赤い靄のような光の存在に気がつくと、無性にその輝きへ手を伸ばしたい衝動に駆られた。
「その光には触っちゃだめよ。」
チェルニーの様子に気付いたティティスが注意を促すも、少女の好奇心を抑えられない様子で、手を止めるも視線までは外さなかった。
「赤い光は闘気よ。ルワンの本領は無形魔術、術式を用いずに魔素や魔導力で敵を倒す魔法よ。つまり、その光がルワンの武器なの。」
話に興味を持った様子で闘気の輝きから目を離すと、ティティスの目を真っ直ぐに見上げてきた。
「ルワンの魔素である闘気の特性は単純な破壊よ。触れる物全てを壊そうとするから下手に手を出しちゃ駄目よ。」
「特にバルディッシュの刃は止めろ。」
念を押して最後に付け加えられたルワンの声に、後ろを歩く2人が同時に驚きの表情を浮かべた。
「俺は闘気の扱い方に型を定め、これを闘気術と呼ぶ。武器の形状毎に1種類の闘気術を用いる。」
ルワンは振り返らないままに話を進めながら歩幅を広くしていった。
距離が開いた事に気付いて、足を速めようとした2人に対して、空いた左手で「止まれ」のサインが送られた。
「バルディッシュの型は嵐と言って、魔素の特性を最も強く引き出している。文字通りに嵐のような攻撃性を備えた型だ。」
話を終えるのと同時に高々とバルディッシュを持ち上げ、刃を背に回した状態で肩に担ぐと両手でしっかりと柄を握り締めた。
ルワンが構えた直後に斧を覆っていた赤い輝きが強まって、闘気の流れが視認できるまでになった。
刀身の上を絶え間なく行き交う光の靄は、渦巻いたりと濁流のような荒々しさを見せつけていた。
闘気の流れを目にしたチェルニーの喉が唾を飲み下している間に大斧が動き、大きな半円を描きながら振り下ろされていた。
音という名の衝撃が体を突き抜けて、チェルニーは二重の意味で喉を鳴らした。
ルワンがバルディッシュを振り下ろすと空間が三角形に割れて、その奥に少し古びた雰囲気の屋敷が建っていた。
振り下ろした大斧を肩へ担いでから振り返り、目を見開いたまま固まっている2人に「行くぞ」と声を掛けた。
ティティスが慌てた様子で未だに呆然とするチェルニーの手を引いて歩き始めた。
ルワンはバルディッシュが作り上げたクレーターを超えた地点で待っていて、遅れて付いてきた2人に後ろを指さした。
「万が一の時に使う逃走ルートだ。よく見ておけ。」
言われて振り返ると闇の森らしからぬ景色に亀裂が走り、クレーターと森の奥へ伸びる溝が見て取れた。
バルディッシュによって切り裂かれた空間の裂け目が閉じた後も、クレーターが半分だけ不自然な模様として残された。
切り裂いた結界の奥に潜んでいた空間は、広いだけの殺風景な敷地に一軒の屋敷と、騎士の石像が2体あるだけだった。
ルワンは如何にも動き出しそうな雰囲気を醸し出す石像が守る入り口へ向かって、躊躇することもなく進んでいく。
その後ろを2歩ほど離れて、チェルニーの手を引いたティティスが続いていた。
屋敷まで残り30mまで近づいた所で、チェルニーの耳が岩の擦れる音を捕らえて、反射的に体を固まらせた。
「良い反応だが、少し過剰すぎる。少しは俺を信用して欲しいものだ。」
ルワンが肩越しに振り返っている間に2体の石像が動き出し、4m近い巨体で一足飛びに距離を詰めてきた。
飛び込みと同時に振り下ろされた巨大な剣と、ルワンが無造作に横薙ぎに振り抜いたバルディッシュが交錯する。
数倍はあるだろう質量の差を完全に無視して、闘気を纏った刃が軽々と石像の剣を切り裂いていく。
更に闘気の光が傷口から浸食するように広がり、一瞬の内に石像の剣を焼き払っていった。
次へ
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ルワンが無造作に引き摺っているバルディッシュは易々と地面を削り、歩き出した場所から幅5cmほどの溝を作り続けていた。
チェルニーはルワンの背中に追い付いてからずっと地面を削る大斧が気になっていた。
しばらく凝視していると、斧の刃を包む赤い靄のような光の存在に気がつくと、無性にその輝きへ手を伸ばしたい衝動に駆られた。
「その光には触っちゃだめよ。」
チェルニーの様子に気付いたティティスが注意を促すも、少女の好奇心を抑えられない様子で、手を止めるも視線までは外さなかった。
「赤い光は闘気よ。ルワンの本領は無形魔術、術式を用いずに魔素や魔導力で敵を倒す魔法よ。つまり、その光がルワンの武器なの。」
話に興味を持った様子で闘気の輝きから目を離すと、ティティスの目を真っ直ぐに見上げてきた。
「ルワンの魔素である闘気の特性は単純な破壊よ。触れる物全てを壊そうとするから下手に手を出しちゃ駄目よ。」
「特にバルディッシュの刃は止めろ。」
念を押して最後に付け加えられたルワンの声に、後ろを歩く2人が同時に驚きの表情を浮かべた。
「俺は闘気の扱い方に型を定め、これを闘気術と呼ぶ。武器の形状毎に1種類の闘気術を用いる。」
ルワンは振り返らないままに話を進めながら歩幅を広くしていった。
距離が開いた事に気付いて、足を速めようとした2人に対して、空いた左手で「止まれ」のサインが送られた。
「バルディッシュの型は嵐と言って、魔素の特性を最も強く引き出している。文字通りに嵐のような攻撃性を備えた型だ。」
話を終えるのと同時に高々とバルディッシュを持ち上げ、刃を背に回した状態で肩に担ぐと両手でしっかりと柄を握り締めた。
ルワンが構えた直後に斧を覆っていた赤い輝きが強まって、闘気の流れが視認できるまでになった。
刀身の上を絶え間なく行き交う光の靄は、渦巻いたりと濁流のような荒々しさを見せつけていた。
闘気の流れを目にしたチェルニーの喉が唾を飲み下している間に大斧が動き、大きな半円を描きながら振り下ろされていた。
音という名の衝撃が体を突き抜けて、チェルニーは二重の意味で喉を鳴らした。
ルワンがバルディッシュを振り下ろすと空間が三角形に割れて、その奥に少し古びた雰囲気の屋敷が建っていた。
振り下ろした大斧を肩へ担いでから振り返り、目を見開いたまま固まっている2人に「行くぞ」と声を掛けた。
ティティスが慌てた様子で未だに呆然とするチェルニーの手を引いて歩き始めた。
ルワンはバルディッシュが作り上げたクレーターを超えた地点で待っていて、遅れて付いてきた2人に後ろを指さした。
「万が一の時に使う逃走ルートだ。よく見ておけ。」
言われて振り返ると闇の森らしからぬ景色に亀裂が走り、クレーターと森の奥へ伸びる溝が見て取れた。
バルディッシュによって切り裂かれた空間の裂け目が閉じた後も、クレーターが半分だけ不自然な模様として残された。
切り裂いた結界の奥に潜んでいた空間は、広いだけの殺風景な敷地に一軒の屋敷と、騎士の石像が2体あるだけだった。
ルワンは如何にも動き出しそうな雰囲気を醸し出す石像が守る入り口へ向かって、躊躇することもなく進んでいく。
その後ろを2歩ほど離れて、チェルニーの手を引いたティティスが続いていた。
屋敷まで残り30mまで近づいた所で、チェルニーの耳が岩の擦れる音を捕らえて、反射的に体を固まらせた。
「良い反応だが、少し過剰すぎる。少しは俺を信用して欲しいものだ。」
ルワンが肩越しに振り返っている間に2体の石像が動き出し、4m近い巨体で一足飛びに距離を詰めてきた。
飛び込みと同時に振り下ろされた巨大な剣と、ルワンが無造作に横薙ぎに振り抜いたバルディッシュが交錯する。
数倍はあるだろう質量の差を完全に無視して、闘気を纏った刃が軽々と石像の剣を切り裂いていく。
更に闘気の光が傷口から浸食するように広がり、一瞬の内に石像の剣を焼き払っていった。
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