[小説:闇に舞う者] part82010年11月28日 14時46分18秒

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ルワンはマリアーヌ王女の言葉を吟味するように、顎へ手を当てながら「ふむ」と声を漏らしながら考えを巡らせた。
その様子を神へ祈るような眼差しを向けるマリアーヌを避けるように背を向けて、壁に備え付けられた大きな鏡の方へと歩いていく。
鏡の正面で少しだけ立ち止まって一瞥すると、再び歩き出して部屋の中を1周するように巡って元の位置へ戻り、右手を伸ばしたまま肩の高さに持ち上げて、手の甲を天井へ向けた姿勢を取った。
「リーゼとミシェルはマリアーヌを抑えておけ。」
何を言わずに見守っていた2人へ指示を飛ばすと、即座にミシェルが左肩、リーゼロッテ女王が右肩へ手を掛けて、ルワンの姿勢から次の行動を悟って半歩前へ出ていたマリアーヌを引き留めた。
目を輝かせながら「自重しています。」と説得力のない言葉を吐いているマリアーヌが取り押さえられた事を確認して、正面へ視線を戻すと中断していた言葉を紡ぎ出した。

「ディーナ、出てこい。」
ルワンの言葉から2秒ほど室内が完全なる沈黙が支配する。
眉を寄せながらマリアーヌの方へ目を向けると、普段の物静かな様子からは想像もできない興奮した牛のような姿を晒す王女と、その肩に手を掛けて引き留めている2人の呆れ顔が目に飛び込んできた。
「マリアーヌ、今すぐにその荒い鼻息をやめろ。ディーナが怯えて出てこねぇ。」
若干の怒気を含めたルワンの言葉を受けてもマリアーヌの勢いは留まることを知らず、呆れたルワンが棍の切っ先をマリアーヌへ向けて「いっそのこと眠らせてやろうか?」と無言で脅した。
本来なら王女を武器で脅したりすれば、リーゼロッテやミシェルが黙っていないはずなのだが、2人して巻き込まれないよう立ち位置を変えはしても、ルワンを止めようという意志を示さなかった。
その雰囲気から身の危険を感じた事でマリアーヌのテンションが下がり、残念そうな顔をしながらも2歩ほど後退りすると、リーゼロッテの陰へ隠れるような位置へと移動した。

左手で水平に構えていた棍をそのままの姿勢で虚空へ片付けてから、再び視線を右手へ移して「ディーナ」と先ほどより低い声で呼びかけた。
若干の間を置いてから一同の視線が集まる右手の先ではなく、マリアーヌからの死角となる右肩に淡い光が漏れだし、その中から身長20cmほどの小さな少女が出現した。

ディーナと呼ばれた少女の髪はルワンと同じく赤色をしており、髪質も似て癖が強くてウェーブが掛かっている上に、足下へ届くほどの長さから炎のように見えた。
目の造りもルワンと近く切れ長の吊り目なのだが、伏し目がちの自信なさげで気弱な表情を浮かべているため、凛々しさよりも幼さの方が印象に強く表れていた。
シンプルな白いワンピースを身に纏い、薄く透き通った1対の羽を背負う姿は、絵本から飛び出してきた妖精を連想させ、恥ずかしげな座り方も相まって可愛らしさを過剰に演出していた。

マリアーヌから死角となって見えなかったが、ベッドの脇に控えていたメイド達が黄色い声が漏れてきた。
メイド達の視線からも逃れようとしたディーナがルワンの右肩から浮き上がると、後頭部へ移動して髪の茂みに逃げ込もうとした。
しかし、ルワンの髪はディーナを覆い隠せる程の量がないためので、尻どころか背中さえも満足に隠せない状態だった。
さらに回り込んだ場所はリーゼロッテ女王からから丸見えだった。
「相変わらず、ルワンの分身とは思えない可愛らしさだ。」
女王は目を細めて笑みと感嘆の声を漏らしながら、後ろから覗き込もうとするマリアーヌを妨害して押し止めていた。

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