[小説:闇に舞う者] part11 ― 2010年12月26日 20時40分56秒
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http://crimson-harberd.asablo.jp/blog/2010/09/20/5357805
安堵の言葉を繰り返すマリアーヌを眺めていたルワンが「わざとらしい」と呆れた溜め息と共に吐き捨てながら視線を外した。
それから元より鋭かった視線を更に研ぎ澄まして、不快感を前面に出した表情でマリアーヌに向き直った。
鋭い視線を真っ向から受けたマリアーヌは、喉元へ刃を突き付けられたかのように頬を引きつらせながら後退る。
「俺のことを良く知っているお前のことだ。こういう茶番を好まない事くらい知っているだろ?」
ルワンが1歩前へ踏み出せば、マリアーヌが2歩も後退る調子で、部屋の中央から出口の方へと二人が移動していく。
マリアーヌがリーゼロッテ女王とミシェルを通り過ぎて、3対1で向かい合う格好となったところでルワンが足を止めた。
「マリアーヌ、お前は客人が現時点において、無事であると確信しているだろ。違うか?」
リーゼロッテ女王から困惑の色に染まった視線を向けられて、ルワンは大袈裟に呆れた溜め息を吐いて肩を竦めてみせた。
「確かにマリアーヌなら錯乱するなんて醜態を晒しても、有り得ると納得もしちまう。だが、ディーナを呼び出した後の様子は、1時間前から錯乱するほどの不安を抱えている人間の行動とはとても思えなかった。」
マリアーヌがすでに敗北を確信してしまった様子で、小さく声を漏らしながら青ざめた表情を浮かべている。
「基本的にマリアーヌは馬鹿じゃない。事件発生のタイミングから考えて、誘拐の線はないと推測できていたはずだ。それに、客人を連れ去った魔法へ関わった当事者として、術式の安全性を肌で感じていても不思議じゃない。何より態度に違和感があった。」
ルワンの解説へ耳を傾けていたミシェルが何か思い付いて、声までは漏らさなかったけれど口を開き掛けた。
その変化を見落とさなかったルワンが、思い付いた事を言うように促され、ミシェルは困った表情を浮かべながら口を開いた。
「ティティス様の訪問に関して、過去3回ほど女王様の反対で取り消された経緯があります。王女様はその事を根に持っていた可能性があるかと・・・」
「ほぉ、そうなると、錯乱したのもリーゼを不安にさせるための演技だった可能性が出てくるわけだ。」
その後、リーゼロッテ女王がマリアーヌ王女へ食ってかかる場面もあったが、ルワンに「騙される方が悪い」と指摘されて、相変わらずの笑みの中に悔しさを滲ませていた。
「さて、道具が揃うまでの暇潰しのつもりだったが、あっさりと終わりすぎたな。」
天井を見上げながらルワンが漏らした言葉を聞いて、マリアーヌが肩を落としながら震えた声を漏らした。
「暇潰しで、私を地獄へ落とすなんて酷すぎですよ。ルワン様が旅立った後を考えると身震いが止まりませんよ。」
「状況を利用しようとして、俺を茶番へ巻き込んだお前が悪い。」
ルワンが有らぬ方向を向いたまま吐き捨てている両隣で、リーゼロッテとミシェルが不敵な笑みと困った顔という両極端な表情を浮かべていた。
「暇だから、リーゼがティティスって奴を呼ぶ事に反対した理由でも聞かせろ。」
「ティティス様と王女様の文通は、ソフィア様の計らいがキッカケなのです。」
興味なさげに話を聞いていたルワンだが、聞き慣れた少女の名前が出て来た瞬間に心の底から嫌そうな表情をミシェルへ向けた。
「お察しの通り、ティティス様も王女様と同じくで、ルワン様の武勇伝を題材にしたソフィア様の著書を愛読されています。それも1巻から初版本で揃えている筋金入りと聞いています」
「ああ、それでティティスっての会談する事で、マリアーヌがより重傷化するかも知れないと心配したわけか。」
酔狂な娘を心配する母親への同情と同時に、自分へ及ぶ被害を想像してウンザリとした気分になった。
「大丈夫ですよ。ルワン様を神聖視している私と違って、ティティスさんは等身大の人間として尊敬しているだけですから、私のように煙たがられる行動はなされないはずです。」
ルワンがティティスの救出に後ろ向きな気持ちを感じ始めたと察して、マリアーヌが入れたフォローは、自分が煙たがられていると自覚する言葉を含んでいたため、室内に居合わせた全員を絶句させた。
それから暫く、注文された魔導具を携えた兵士がドアをノックするまでの間、会話を聞いていなかったディーナのクッキーを頬張る音だけが、静まり返った室内に響いていた。
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安堵の言葉を繰り返すマリアーヌを眺めていたルワンが「わざとらしい」と呆れた溜め息と共に吐き捨てながら視線を外した。
それから元より鋭かった視線を更に研ぎ澄まして、不快感を前面に出した表情でマリアーヌに向き直った。
鋭い視線を真っ向から受けたマリアーヌは、喉元へ刃を突き付けられたかのように頬を引きつらせながら後退る。
「俺のことを良く知っているお前のことだ。こういう茶番を好まない事くらい知っているだろ?」
ルワンが1歩前へ踏み出せば、マリアーヌが2歩も後退る調子で、部屋の中央から出口の方へと二人が移動していく。
マリアーヌがリーゼロッテ女王とミシェルを通り過ぎて、3対1で向かい合う格好となったところでルワンが足を止めた。
「マリアーヌ、お前は客人が現時点において、無事であると確信しているだろ。違うか?」
リーゼロッテ女王から困惑の色に染まった視線を向けられて、ルワンは大袈裟に呆れた溜め息を吐いて肩を竦めてみせた。
「確かにマリアーヌなら錯乱するなんて醜態を晒しても、有り得ると納得もしちまう。だが、ディーナを呼び出した後の様子は、1時間前から錯乱するほどの不安を抱えている人間の行動とはとても思えなかった。」
マリアーヌがすでに敗北を確信してしまった様子で、小さく声を漏らしながら青ざめた表情を浮かべている。
「基本的にマリアーヌは馬鹿じゃない。事件発生のタイミングから考えて、誘拐の線はないと推測できていたはずだ。それに、客人を連れ去った魔法へ関わった当事者として、術式の安全性を肌で感じていても不思議じゃない。何より態度に違和感があった。」
ルワンの解説へ耳を傾けていたミシェルが何か思い付いて、声までは漏らさなかったけれど口を開き掛けた。
その変化を見落とさなかったルワンが、思い付いた事を言うように促され、ミシェルは困った表情を浮かべながら口を開いた。
「ティティス様の訪問に関して、過去3回ほど女王様の反対で取り消された経緯があります。王女様はその事を根に持っていた可能性があるかと・・・」
「ほぉ、そうなると、錯乱したのもリーゼを不安にさせるための演技だった可能性が出てくるわけだ。」
その後、リーゼロッテ女王がマリアーヌ王女へ食ってかかる場面もあったが、ルワンに「騙される方が悪い」と指摘されて、相変わらずの笑みの中に悔しさを滲ませていた。
「さて、道具が揃うまでの暇潰しのつもりだったが、あっさりと終わりすぎたな。」
天井を見上げながらルワンが漏らした言葉を聞いて、マリアーヌが肩を落としながら震えた声を漏らした。
「暇潰しで、私を地獄へ落とすなんて酷すぎですよ。ルワン様が旅立った後を考えると身震いが止まりませんよ。」
「状況を利用しようとして、俺を茶番へ巻き込んだお前が悪い。」
ルワンが有らぬ方向を向いたまま吐き捨てている両隣で、リーゼロッテとミシェルが不敵な笑みと困った顔という両極端な表情を浮かべていた。
「暇だから、リーゼがティティスって奴を呼ぶ事に反対した理由でも聞かせろ。」
「ティティス様と王女様の文通は、ソフィア様の計らいがキッカケなのです。」
興味なさげに話を聞いていたルワンだが、聞き慣れた少女の名前が出て来た瞬間に心の底から嫌そうな表情をミシェルへ向けた。
「お察しの通り、ティティス様も王女様と同じくで、ルワン様の武勇伝を題材にしたソフィア様の著書を愛読されています。それも1巻から初版本で揃えている筋金入りと聞いています」
「ああ、それでティティスっての会談する事で、マリアーヌがより重傷化するかも知れないと心配したわけか。」
酔狂な娘を心配する母親への同情と同時に、自分へ及ぶ被害を想像してウンザリとした気分になった。
「大丈夫ですよ。ルワン様を神聖視している私と違って、ティティスさんは等身大の人間として尊敬しているだけですから、私のように煙たがられる行動はなされないはずです。」
ルワンがティティスの救出に後ろ向きな気持ちを感じ始めたと察して、マリアーヌが入れたフォローは、自分が煙たがられていると自覚する言葉を含んでいたため、室内に居合わせた全員を絶句させた。
それから暫く、注文された魔導具を携えた兵士がドアをノックするまでの間、会話を聞いていなかったディーナのクッキーを頬張る音だけが、静まり返った室内に響いていた。
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