[小説:闇に舞う者] part622012年04月15日 17時35分25秒

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無事に術式が組み終わると、九頭棍に淡い光で描かれた文様が浮かび上がった。
ルワンはその文様を確認しながら立ち上がり、大きく深呼吸を繰り返しながら踵を返す。
彼を保護するため少女達から放出された魔導力と、ヴァンの殺意が衝突した際に生まれた闘気を空気と共に吸い込んでいく。
間接的に得た闘気を燃料に小さな火種を起こして、前線へ出るための魔導力を蓄えていく。
「結局のところ、俺は独りで戦えるほど強くないのさ。」
2度目の深呼吸の後に、ルワンがぽつりと呟いた。
「ディーナがいなければ、魔導力が安定しなくて術式が組めない。」
ゆっくりと一歩を踏み出す。
「魔導力と術式の相性の悪さを緩和する魔導書も、作業場も、どれもこれも与えられた物ばかりだ。」
少女達と一列に並んだ所で立ち止まり、殆どの肉が削ぎ落ちたヴァンを見据える。
「魔導力さえ自分一人で生み出せやしない。俺は常に、敵にも味方にも支えられて戦っている。」
全身に淡い闘気の輝きを纏ってから、少女達が形作る魔導力の壁を踏み越えて、ヴァンの敵意を正面から受け止める。
圧力にさえ耐えられるのであれば、剥き出しの敵意は闘気を練り上げるのに都合が良かった事もあり、枯渇した魔導力が一気に回復していく。
「俺は弱い。だが、絶対に諦めない。」
床を踏み鳴らす大きな一歩を踏み出し、部屋中に充満していたヴァンの敵意を気迫で押し返した。

室内の雰囲気が一変した所で、九頭棍を前方へ突き出すと、強い輝きと共に変形を開始して、12本のチャクラムへと姿を変える。
チャクラムは自然落下を開始する前に闘気の炎に包まれ、ルワンが指を弾くのと同時にヴァンへ向かって飛んでいき、その周囲を猛スピードで旋回し始める。
全てのチャクラムが一定の軌道に乗ったところで、ルワンが再び指を弾いて合図を送ると軌道上に光の文様が刻まれていく。
ヴァンを包み込む立体魔法陣が瞬く間に描き出される。
立体魔法陣が無事に展開されると、ルワンが見えない球体をなぞるような動作を開始する。
その動きに呼応してチャクラムから立体魔法陣へ魔導力が注ぎ込まれて、10秒と掛からずに完成されて術式が発動する。

時を同じくしてヴァンの魔法も完成させて、断末魔のごとき言葉を成さない叫びを上げた。
ヴァンの放つ悪意の気配が瞬間的に膨れ上がるも、立体魔法陣によって押し込められて収束する。
ヴァンの叫びからワンテンポ遅れて、大気を揺るがす衝撃と共に立体魔法陣が体積が2倍へ膨れ上がった。
膨れ上がった事で生まれた隙間から、内側で漆黒の炎が蠢く様が窺い知れた。

発動された禁術『魔界の貪欲なる炎』を止める方法は単純に共食いさせればよい。
立体魔法陣は反発し合う磁石のように漆黒の炎を遠ざける特性を持ち、禁術へ触れる事なく押さえ込んでいる。
このまま立体魔法陣を維持し続ければ、術師すら食い荒らす凶悪さが仇となり、共に囲われているヴァンは自滅する事になる。

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