[小説:闇に舞う者] part552012年01月15日 20時30分35秒

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ルワンが本来の攻撃力を発揮できてたなら、ヴァンの厚い防御を打ち砕き、現実を知らしめる事など容易かっただろう。
しかし、現状におけてルワンは全力を発揮できない理由が存在していた。
1つは純粋なる魔導力の枯渇にあり、その状況を生み出した原因は持てる全ての魔導力を注ぎ込む、という闘気術『煌』の発動条件にあった。
本来であれば、即座に魔導力を回復できるレベルの敵にしか使えない、といった形で作用するはずの発動条件である。
今回は魔草という意識が希薄で闘気を練れない敵が相手だった上に、感情を高ぶらせる魔力に当てられて冷静な判断力も失っていた。
そんな諸々の事情が折り重なって、魔導力の枯渇という事態へ陥っている。

更に闘気術『煌』には、最後の攻撃が必ず最大の威力でなければならない、という制約まであるから頭が痛くなってくる。
魔草の魔力へ気付く前に派手な攻撃を繰り返していた事情もあり、最大威力の攻撃は随分とハードルが高くなっている。
「全く厄介なこと極まりないな。」
状況を振り返り、ルワンの口から溜め息混じりの言葉が漏れる。
続いてハルベルトへ目を移すと飾り布に見える闘気の結晶は短くなり、注意せずとも床へ触れる心配のない長さになっていた。
「10回足らずの攻撃でこの長さか。無駄遣いしたにしても酷すぎる。」
視線をヴァンへ戻しながら再度確認してみると、先程の攻撃で付いた傷が僅かに小さくなっている。
「さて、最後に必殺の一撃をもっていくため、馬鹿の思い込みをどう砕いてくれようか。」
自らが課した制約と言っても、こうも分の悪い詰め将棋が如き状況へ陥るのも久々で、溜め息まで漏らる状況にも関わらず、口元は小さな笑みとなっていた。

目を細めて視界を狭くし、ゆっくりと深呼吸をしながら使える力を改めて列挙してみる。
攻撃の中心は闘気術となるが、他にも作り置きの術式も幾つか残っていた。
それらを組み合わせる事でヴァンの思い込みを打破して、ハルベルトで必殺の一撃を放てる状況を作るための作戦を考える。
作戦と言っても、推測の上に仮定を積み上げた不安定な内容となっており、1つでも予想が外れた時点で全てが崩れ去ってしまう。
そんな危険度の高い作戦を立てながら、ルワンの口元はやはり笑っていた。
「何だかんだで、面白くなってきたじゃねぇか。」
小さな呟きと同時に『煌』による加速を使わず、魔導力で強化した脚力のみで床を蹴って走り出した。

間合いを詰めると駆け込んだ勢いを乗せながらハルベルトを横薙ぎに振り、ヴァンの腹部へ目掛けて斧状の刃を打ち込む。
先程と同様に目標へ到達する1cm手前で見えない壁に阻まれ、何の手応えもなく攻撃は止められていた。
即座にハルベルトを引き戻して、間髪入れず喉元へ向けて繰り出した突きも同じく見えざる壁に阻まれた。
「さっきも言ったじゃないか。僕の屋敷でボクに勝つ事は不可能なんだよ。」
ルワンが4度目の攻撃を繰り出した所で、ようやっとヴァンが状況に追い付いて冷ややかな言葉を投げ掛けてくる。
攻撃の手を休めないまま言葉と共に向けられた視線を正面から捉えると、押し込めていた闘気を瞬間的に膨れ上がらせる。
それはルディア王国の王都へ向けて街道を疾走する途中、リーゼロッテ女王とミシェル親衛隊長へ放ったのと同じ威嚇攻撃だった。

不意打ちとはいえ女王と親衛隊長を立ち眩みさせた威嚇を、素人が至近距離の真っ向から受ければ泡を吹いて卒倒するだろう。
ヴァンは魔族に身を落としたと言っても素人である事に代わりがない。
卒倒するまで行かないまでも、何らかの影響は出るはずと想定しての威嚇攻撃は余裕の笑みをあっさりと剥ぎ取っていた。
ルワンはその隙をしっかりと捉えて、渾身の力を込めてハルベルトの矛先をヴァンの顔面へ突き立てる。

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