[小説:闇に舞う者] part542012年01月09日 18時22分31秒

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手駒をことごとく潰されたにも関わらず、ヴァンは余裕の笑みを浮かべながらルワンと対峙している。
その笑みに焦りの色が混じっているらしく、先程までの大仰な身振りは形を潜めていた。
一方で魔草の魔力に当てられて、感情を暴走させていたティティスとチェルニーは冷静さを取り戻しつつあった。
魔草が消滅した事に加えて、一段と輝きを増してルワンの闘気が彼女等を蝕んでいた魔力を払い落としたためだ。
ルワンの闘気が火花を散らす音のみ響く短い静寂の空間に、ヴァンから漏れた笑い声が少しずつ音量を上げていく。
「本当に君を見ていると飽きないね。苦戦していたかと思えば、手品みたいにあっさりと消してみる。ちょっとしたエンターテイナーのようじゃないか。」
ルワンはヴァンの言葉を耳に入れながら目を閉じると、怒りを内側へ押し込むように深くて長い呼吸を繰り返した。
「話に聞いた通りに何をしでかすか全く読めない。実の恐ろしい存在だとは思う。だけどね、僕には絶対に勝てないよ。」
ヴァンが笑みを歪めて見下した視線を投げ掛けた瞬間、ルワンの携えたハルベルトの矛先が小さな光る。

矛先の破裂音がヴァンの耳へ届くよりも早くルワンが距離を詰め、刃を正面へ向けないまま柄を打ち込んでいた。
移動に用いた加速度を利用した最速の攻撃は衝突音すらも立てず、ヴァンの胸へ突き刺さるまで1cmという所で止まっていた。
「ここは僕の屋敷だ。僕のために存在する世界だ。この敷地内で僕を傷付ける事はできない仕様になっているのさ。」
目と鼻の先にあるルワンの顔を見下ろしながら、両手を広げたポーズでヴァンが高らかに宣言する。
「だから、君は僕に勝てない。」
ルワンはヴァンの言葉に小さく溜め息を漏らしてから、後ろへ半歩下がりながら、ハルベルトを頭上高く振り上げる。
斧の形状をした刃は濃厚な闘気によって深紅に染め上げられ、頭上から降り注ぐ輝きはルワンの影を四方へ散らした。
闘気の充填が済んだハルベルトを一切の躊躇を挟まずに振り下ろす。
先の攻撃で押し返された1cmの壁をあっさりと突き破ると、深紅の刃から吹き出した闘気が閃光と化してヴァンを吹き飛ばした。
大広間を振るわせる爆音と衝突音が響き渡る中で、ルワンは砂煙の向こうに埋もれたヴァンを睨み続けた。

砂煙が晴れるより前に人影が浮かび上がってきた。
「折角の衣装が台無しじゃないか。敷地内に長く滞在するほど効果が高まると聞いたけど、まだ不十分なのか。君は本当に人間離れしているね。」
砂煙から抜け出したヴァンは衣装を全て消し飛ばされて、黄緑色の金属質な鱗に覆われた肌を晒していた。
左肩から斜めに亀裂が走っているが、既に出血が止まっているらしく、痛がっている素振りもない事から考えて、ダメージを負っていないと判断された。
首から上だけが人らしい肌を保っている状態で、どちらかと言えば爬虫類の体に人間の頭をすげ替えた感じの見た目となっていた。
「もっとも人間を超えた存在である僕にとって、服なんて無くても困らないのだけどね。」
明らかに人間でない体を自慢げに見せびらかす態度を取りながら、ゆっくりとルワンの方へ近付いていく。
「違うな。お前は人間を超えたのではなく、人間である事から逃げたに過ぎない。」
ルワンは動揺した素振りを微塵も見せず静かに言い放ちながら、心中では舌打ちをしていた。
ヴァンが魔族を取り込んでいる事は予想の範囲内にだったので、別段に慌てるような話でもない。
予想外だった点は防御力の高さにあって、今の一撃で大したダメージが通っていない事が舌打ちの理由であった。

魔族の鱗による防御力に加えて、ヴァンの言動から察するに侵入者の攻撃を無力化する呪いが存在すると推測される。
不特定多数の相手へ一方的に制限を掛ける魔法は大した効力を発揮しないはずである。
魔法の基本はハイリスク・ハイリターンであるため、リスクを冒さず相手の攻撃力を奪う魔法に力を持つはずがないからだ。
しかし、魔法は魔導力によって妄想を現実に投影する物であり、思い込みの強さもまた力となる。
ヴァンの場合、魔族の堅い鱗を持っている上に無知で理屈を知らないため、言葉を鵜呑みにして信じ切っていると思われた。
この無知が故の思い込みは自己暗示と比較にならない強さがあり、相手が自分に不利な理屈を信じる頭を持っていない場合、力で現実を知らしめるしか手段がない。
ヴァンに関しては力で分からせるしかないタイプと推測されるため、舌打ちの1つもしたくなる。

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「そら、急げ」 ランチメニューを 食べるため2012年01月09日 19時54分36秒

今日は朝9時頃に起床して、昨日に中断した小説を書き上げて、その後にFlashゲームの改修へ取り掛かる予定だったのに、寝起きに失敗して10時過ぎまで布団の中で過ごしてしまった。
徹夜の影響で陥っている低血圧モードは回復する傾向になっても、体を動かしている時に正常値へ戻りやすいだけで、寝起きの血圧は低めのままなのかも知れない。

目覚めた直後に血圧を測ってみたい所だけど、現状は指の感触で血圧を判断している状態なので、寝惚け眼ではただでさえ曖昧な測定に大きな誤差が混じりそうだし、何より寝起きで血圧の事を思い出せる気がしない。
寝起きに血圧チェックを滞りなく行えるようになれば、その時点で本来の血圧へ戻ってきたと判断しても良さそうに思える。

そんな調子で寝起きに失敗してしまい、寝惚け眼を擦りながら薬を服用するために朝食を食べてから自室へ戻ると、携帯の着信ランプが点灯して発信者を確認するとToda氏の名前が見えた。
履歴を確認した所で土曜の昼食会での記憶が蘇ってきて、Toda氏が今日の昼食にカレー屋へ行きたいと言い出して、付き合ってやる話になっていた事を思い出した。
連休最終日の今日は水曜に控えたアップデートへ向けて、休日に作業をする可能性が有った事から当日に予定を決めると言っておいたので、この着信が何を意味しているのか容易く想像できた。

そんなわけで昼食の予定を決めようとToda氏と連絡を取ったのだけど、朝食が遅かった事もあって14時頃を希望して、仕事の呼び出しもないからと体を動かす為に散髪へ出掛けようとした。
しかし、大雑把な予定が決まった所でG社長から連絡が入って、2点ほど修正をお願いされてしまう。
大した内容でもなかったので早々と終わらせたけど、床屋の混雑具合によっては遅刻しそうな時間になっていたので、昼食後に床屋へ行く予定に切り替える事にした。

特に影響しないと思いながら予定変更をToda氏に通達すると、彼も床屋へ行こうかどうしようかと言い出した。
俺は1千円のカットだけしてくれる駅に良くある床屋へ行くのだけど、片道5kmほど自転車で走る必要があるため、Toda氏が付いてくると言い出すケースは非常に希だった。
俺は通勤で毎日4kmほど走っているので苦としないけど、Toda氏は自宅から会社まで1kmもないので基本的に体力がなくて、片道5kmは楽な距離とは言えない。
それ故に珍しい提案もあるものだと感心しながら、即席で待ち合わせ場所を決めて、連れ立って散髪へ向かった。

Toda氏を気遣ってのスローペースで走行した影響で、俺だけなら片道15分と掛からない道程が1時間ほど掛かったらしく、2人の散髪が終わると14時半を過ぎていた。
この時点になって、Toda氏からカレー屋のランチが15時までという事実が知らされて、ランチメニューが頼める時間までに到着できるよう頑張ろうという流れになる。
行きはToda氏のペースに合わせていたのに対して、帰りは俺がペースメーカーの役割を担いながら引っ張るように走って、目標だった15時ジャストに入店という結果を残す。

スタートした直後にToda氏の背中を押しながら加速して、俺のペースで走らせようと頑張ってみたのだけど、低血圧モードに陥るほど弱った心臓には負担が大きすぎたらしく、1度の加速で息が上がってしまう有様だった。
しかも、Toda氏の口から「怖い」なんて発言が漏れたので、本人に頑張ってもらう他にないと言いながら、勘だけでペース配分をしながら走行していった。

入店した時に店員から「特別だよ」と言われるも、無事にインド人の作る本格カレーをランチメニューで頂けて大満足だった。