[小説:闇に舞う者] part492011年11月06日 18時14分15秒

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ルワンが変形させた武器を見てティティスが漏らした小さく驚きの声を、チェルニーは聞き漏らさなかった。
何に驚いたのかと好奇心の籠もった視線を送っていると、ティティスがその熱に気付いて振り返った。
絡まった視線に妙な懐かしさを感じて、2人で同時に表情を緩ませた事から、互いに同じ感想を抱いたと通じ合えた。
張り詰めた緊張の糸が解ける開放感を共有して満面の笑みを交わしてから、どちらともなくルワンの方へと向き直った。
「あれはハルベルト、斧と槍に鉤爪を組み合わせた武器で色々な使い方があるの。ハルバードやハルバートと呼ぶ人もいるわ。そして、闘気術は『煌』と言って、キラキラと輝くという意味よ。ほら、綺麗な飾り布が見えるでしょ?」
「ひらひらでキラキラな飾りなら見えているよ。触ったら凄く柔らかそうな赤い飾りのことでしょ?」
「あれはルワンの魔導力が結晶化した物で布じゃないの。しかも、触ると爆発する危険物、指で突いただけで手首まで消えちゃうから注意してね。」
苦笑混じりなティティスの注意に対して、チェルニーが顔を引き吊らせながら手首を握り締めた。

「それで私が驚いた理由は『煌』が発動していたからよ。『煌』を含めた上位ランクの闘気術は発動の火種として特殊な感情が必要なのよ。」
「制約とは少し違ってる?」
「そう、違うわ。『煌』の形を作るために材料となる感情があるの。何かを捨てる代わりに力を得ているわけじゃないわ。」
ティティスがサッと振り返って向けた笑顔を、チェルニーが優れた聴覚から動きを察してしっかりと受け取った。
無言の遣り取りは一瞬だけで済ませて、2人は再び視線をルワンの方へと戻していた。
「問題は『煌』に必要な感情が期待感ということ。私は九頭棍のまま戦うと思っていたくらいで、ルワンが期待するような敵に見えないのよ。」
「お兄ちゃんが圧勝しそうな予感は確かにするけど、きっと何かあるんだろうね。」
「そうなんだろうね。そういえば、ルワンが何か語り掛けていたりしなかった?」
「今さっきから、落ちた人と落とされた人の差だとか言ってる。」
「落ちたと落とされた。もしかして、あの怪物もチェルニー達と同じ里の住民で、自分から怪物になる事を望んだ人なのかな。」
チェルニーが拾った一言から推理を始めていくと背筋に冷たい汗が滲み出してきた。

背後で眠っているチェルニーの両親は生き延びる事を願って、異常な個体数の魔獣を埋め込まれる結果となった。
それに対して、目の前に現れた怪物は生き延びる以上の何かを願っていたら、飛んでもない副産物を生み出した可能性がある。
他者の魔法へ干渉する規格外の能力で作られた怪物となれば、魔王復活という言葉と同等に悪い想像しか呼び覚まさない。
ルワンが期待感を膨らませるのに十分な不安をはっきりと感じ取り、ティティスは背筋に更なる冷たい感触を味わった。

「やっぱり怖いな。」
「大丈夫?」
ティティスの漏らした言葉にチェルニーが心配そうな視線を向けてきた。
冷や汗の吹き出す推理の先を見たことで、振り返らずとも視線を感じ取れるほど、ティティスの感覚は研ぎ澄まされていた。
「うん、ルワンが平然としているから気付かなかった。あの怪物は下手をしたら魔王なんて呼ばれるクラスかも知れないわ。」
「そうなんだ。でも、お兄ちゃんがきっとなんとかしちゃうよ。」
「私もそう思う。でも、やっぱり住む世界が違う気がして、さっきまでの親近感が一気に吹き飛んじゃった。」
「お兄ちゃんは変わってないよ。」
「ふふ、そうね。私が勝手に距離を感じただけよね。しっかりしなきゃ駄目ね。」
小さな溜め息と共に不安を吐き出して、掛けられた言葉を飲み込むように大きく息を吸って、気持ちを切り替えて前を向く。
その瞬間を待っていたかのように、ルワンが構えたハルベルトが爆音を鳴らして吠え、戦闘の幕が切って落とされた。

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