[小説:闇に舞う者] part392011年07月24日 18時21分34秒

初めての方はこちらの記事からお読み下さい。
http://crimson-harberd.asablo.jp/blog/2010/09/20/5357805

「この屋敷は確かに譲り受けた物だよ。外の世界は住みづらかったから紹介してもらったのさ。」
先程までの小馬鹿にしたような大仰な話口調を改めて、真っ直ぐにルワンを見据えながらヴァンが語る。
その言葉を聞いている最中にも、九頭棍が変形した黒衣の袖が再生していた。
「前の持ち主がね。この屋敷が貰い物だと言い当てる人間が現れた時は、実験とか下心を出さずに全力で殺せと忠告していったよ。」
ヴァンの目に宿る輝きの変化はその立ち姿にも大きく現れて、遠目に見ているティティスにも寒気として伝わってきた。
「言われた時は馬鹿らしいと思ったけれど、君を見ていると本当に嫌な予感しかしてこないね。そういうわけで殺しに行くよ。」
ヴァンが指を鳴らした瞬間、ルワンが壁に叩き付けた2人が同時に飛び出した。

先の攻撃で壁へ縫い付けていた拘束は既に解けており、ただのボロ切れと化したローブをその場に残しての突撃だった。
明かりの下に晒された姿を体中に幾つもの異形の顔が埋め込まれていて、肌も鱗や毛皮と統一性が全く見られなかった。
幾つも抱えられた顔は各々に意志を持って動いていて、それぞれに異なった色の魔導力を口に蓄えていた。
突進と同時に異形の顔から幾つもの魔法が打ち出された瞬間、ルワンは右手を突き出しながら姿勢を低くして、拳法の構えを取った。
1つの束となっていた幾つもの魔法がルワンに接触する寸前で、別々の方向へ進路を変えて壁や天井にぶつかって弾けた。

「黒衣の時に使える闘気術の型は鏡といって、相手の魔法を反らしたり、掻き消したりできるそうよ。」
ティティスがパターン通りに愛読書から得た知識で説明を入れたが、チェルニーの反応が今までと違う気がしていた。
何か嫌な予感に駆られて首を動かしてみると、チェルニーが結界の壁に張り付きながらガタガタと震えていた。
「チェルニー、どうしたの?」
今にも卒倒しそうな雰囲気で震える少女に対して、恐怖にも似た不安を感じて自然に言葉が出ていた。
「チェルニー」
二度目は意識して強めに声を張り上げると、チェルニーがゆっくりと震えながら首を動かして顔を向けてきた。
「パパとママだ。」
戦闘が生み出す騒音の中で発せられた弱々しい声は、本来なら周囲に掻き消されて届かないはずなのに、妙にはっきりと聞き取れた。
頭の奥底で予想していた言葉だから聞き取れたのかも知れない。
そう理解した直後に、ティティスは自分がチェルニーをどう慰めるべきか考える事から逃げているのだと知った。
ルワンを襲っている2人組、つまりチェルニーの両親が置かれた状況は正しく最悪と呼ぶべき状況だった。

「大丈夫だって言ってくれないのは、あれが直せないから?」
チェルニーが震える声を絞り出しながら問いかけてくる言葉に、ティティスは目頭から滲み出しそうな暑い物を必死に堪えていた。
「ルワンの口癖、魔法に不可能はない。だが、絶対もない。」
本題へ入る前に言葉が切れてしまい、大きく深呼吸をしてから必死の思いで言葉を紡ぎ出した。
「治療法があっても、絶対に安全という事はないの。まして、魂にまで混ぜ物がされた状態だと、治療は命懸けという言葉さえ生温い危険を伴うわ。今まで生きて成功した事例は存在しないと言われる程に難しいのよ。」

次へ
http://crimson-harberd.asablo.jp/blog/2011/07/31/5999702

あちこちで 塗装工事が 一斉に2011年07月24日 20時39分58秒

自宅周辺は両親が上京した頃から開発された地域のため、周りの住宅は築年数が似たような数字になっていて、外壁の吹き直しといった住宅メンテナンスの時期も似てくるらしい。
実は明日から自宅の外壁を吹き直しが行われる予定となっていて、業者が周辺の家々に迷惑を掛けますと挨拶回りをやっているのだが、何故か我が家にまで顔を出したから何事かと思ったら別の業者だった。
話を聞くと裏にある家でも明日から外壁の吹き直しをやるらしく、そちらの業者が挨拶回りが我が家へ来たらしくて、面白い偶然もあるものだと軽い笑い話になっていた。

塗装の吹き直しは塗料の乾きが良い夏場が最盛期だそうで、奇妙な針路を取った台風6号が過ぎ去るまで待っていたため、上手い具合に工事の着工日が被る結果となったようだ。
先に述べた通り築年数が近い家が多い影響だとは思うけれど、ご近所で外壁の吹き直し工事が行われる件数がやたらと多くて、父親の話によれば来週中に我が家を含めて3軒で着工するそうだ。
ここまで時期が被ってくると単純に築年数が同じというだけでなく、周辺で外壁の吹き直しをやっている様子を何度も見せられて、「我が家もそろそろかしら?」と思いこまされていそうな気がする。

今週も先週に引き続いて排水路の改良工事が行われていて、普段は車の音も殆ど聞こえない静かな住宅街なのに、今月はやたらと工事が多くて騒がしい雰囲気となっている。
ゲームやコミックに集中すれば忘れてしまう程度の騒音で、生活に関しては大きな影響を及ぼすような事こそないのだけど、親戚の家にでも遊びに来ているような微妙な違和感が残っていた。
しかも、今週は台風の影響で狂った風向きが元に戻っていなくて、微妙な涼しさの休日となっている事もあって、気温的にも長野や富山の方へ来ているような気分だった。

そんなこんなと言っている現状でも、窓から吹き込む夜風は涼しいを通り越しており、夏用の薄手の部屋着では肌寒くさえ感じている有様だ。
さて、こんな調子で涼しさに体を慣らしてしまったら、いずれ戻ってくる猛暑に耐えられるのか心配でならない。