[小説:闇に舞う者] part372011年07月10日 21時10分28秒

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ルワンを包み込んだ光の中から拳ほど大きさの塊が飛び出した直後、眩しさが一瞬だけ収縮してから爆発を起こした。
爆発の直前に離脱した塊は突風に流されながら、2回3回と跳ねながら床を転がって、チェルニーを護る結界に当たって止まった。
チェルニーは突然の出来事に呆然としながら座り込んで、足下まで転がってきた物を凝視していた。
塊から上がっていた白煙が収まっていくに連れて、小さな人の手足と思われるシルエットが浮かび上がっていく。
姿形が認識できない時点から予感していた通り、ルワンが受けた魔法攻撃から離脱してきた物の正体はディーナだった。
白煙を上げながら横たわる傷だらけの姿を見ていると、チェルニーの目から涙が溢れ出してきた。
「チェルニー、ディーナを起こして。」
呆然とするチェルニーに対して、ティティスが大声を張り上げていた。

その声に気が付いて振り返ると、必死の形相で同じ言葉を繰り返して叫ぶティティスの姿があった。
目があった瞬間、ほんの少しだけ笑顔を見せてから真剣な眼差しに変わった。
「ディーナをよく見て、変身しているわ。ルワンが武器を変形させて対処した証拠よ。だから、心配しなくても大丈夫よ。」
言われて気絶しているディーナを見ていると、大きなスリットの入った白いチャイナドレスへ着ており、髪型も後頭部で団子型にまとめたシニヨンに変わっていた。
ディーナの変身を確認した事で、少しだけ安堵の表情を浮かべるチェルニーの耳にティティスの声が響く。
「わざわざ逃がしたのだから、ディーナには何か役割があるはずなの。私は遠くて駄目なの。お願い、ディーナを起こして。」
チェルニーは大きく頷いてから、ディーナに顔を近づけようと更に体勢を低くして、床へ這い蹲るような姿勢で声を張り上げる。
「ディーナちゃん、起きて。」
何度も繰り返される叫びを聞きながら、ティティスは爆発の中心に居残ったルワンの方へ視線を走らせた。

爆心地の白煙は未だに収まらず、どのような状態となっているのは全く分からなかった。
物音が一つもしない事から、敵方は先の一撃で決着が付いたと判断して動いていないのだろうと推測した。
「あの状況で使うなら、九頭棍で唯一の防御形態である黒衣であるはず。ディーナも変身しているし、大丈夫よ。」
ティティスの口から紡ぎ出された言葉は、チェルニーへ向けられていると言うよりも、自分へ言い聞かせるようだった。
不安を押し殺して現状で出来うる行動を必死に考えたティティスの思いを感じて、チェルニーの声に力が籠もっていく。
言葉に乗せられた想いに応えるかように、ディーナが薄い羽根を何度か震わせてから弱々しく瞼を開いた。
「ディーナちゃん、気が付いた。」
チェルニーの声に反応して、ゆっくりと首を動かして虚ろな瞳を向けてきた。
寝惚けているのではなく、ダメージが抜けておらず、意識を朦朧とさせている中で酷だと想いながらも声を張り上げる。
「しっかりして。お兄ちゃんを、ルワンお兄ちゃんを助けてあげて。」
チェルニーがルワンの名前を口にした瞬間、ディーナが小さな体を震わせて体を起こすと、混濁の中から一気に意識を引き上げた。
足を震わせながら辛うじて立ち上がると、羽根をぎこちなく動かしながら、必死に地を蹴って走る姿は若鶏の初飛行を連想させた。
走り幅跳びのように何度も踏み切りながら徐々に歩幅を広がっていき、最後に両足を揃えて飛び上がり、見事に宙へと舞い上がった。
ディーナが地を蹴る度に拳を握り締めていた結界の中の2人は、ディーナが飛び立った瞬間に「やった」と声を揃えて叫んでいた。

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