[小説:闇に舞う者] part322011年06月05日 21時29分01秒

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蜘蛛の繭を脱出した時から始まった沈黙を維持したまま徒歩での移動が続けられ、ティティスかチェルニーのどちらかが青ざめてきてくる度に小休止が挟まれた。
休憩中はルワンを挟んで少女等が座り込む形で行われて、症状が重い方の頭にディーナが腰を下ろしていた。
「何なの、これ・・・」
そんな調子で繰り返される小休止が3回目を数えた頃になって、チェルニーが振り絞るように一言を漏らした。
疑問へ答える役目を担っているはずのティティスは、荒い息を漏らしながら天を仰いだまま聞こえていないかように無反応だった。
その様子を見たルワンが浅く溜め息を吐いてから口を開いた。
「魔導力は突き詰めれば影響力だ。世界の法則へ干渉するほどの影響力の中から、人に扱える力だけを集めた物を魔導力と呼ぶ。だから、魔導力の源となる魔素は影響力の塊と言えるわけだ。」
チェルニーの頭に生えた猫耳が小刻みに震えている様子から、必死に聞き取ろうとしている様子を伺い知れた。
必死であっても苦痛の中で思考力が低迷するのも当然であり、言葉を理解するのに時間が掛かっている様子だった。
しばらく間をおいて待っていると、弱々しいながらも視線を合わせてきたので話を再開した。
「魔力は最も一般的な魔素で、簡単に言えばその場その物の雰囲気が及ぼす影響力だ。この森の魔力は濃い。それは世界を狂わせるような雰囲気があるという意味になる。そこへ弱者が踏み込めば、お前等のようになる。」
わざとらしく呆れた溜め息を吐いてみせると、ティティスがゆっくりと首を動かして恨めしそうな視線を向けてから、何か言いたそうに唇を振るわせた。
ルワンは彼女の言いたい事を理解しながらも、敢えて知らない振りをして話を進めた。
「お前等は闇の森の雰囲気に飲み込まれて、その影響力で文字通りに消えそうになっているわけだ。もう少し我慢すれば、お前等の防衛本能が目覚めるなり、服に織り込まれた魔法が発動するなりして楽になるだろう。」
そこまで話し終えた所で立ち上がると、荒い息を繰り返す2人を引き起こして再び歩き出した。
2人の口数が戻るまでにルワンの解説があってから4回の移動と休憩を必要とした。

闇の森に満ちた魔力の呪縛から完全に解放されると、歩き疲れたチェルニーが空腹を訴えたため、パンにジャムを塗っただけの簡単な食事休憩となった。
「それって、お兄ちゃんがその気になれば、ボク達はあんなに苦しまなくてよかったってこと?」
「そういうことになるわね。魔力に障られる経験はしておいた方が後々で為になるけど、魔導力を扱える私まで立てなくなるとか酷すぎると思う。」
「自分の身すら守りきれない分際で『魔導力が扱える』なんて良く言えるな。」
「う・・・」
非難の声を浴びせていたティティスが反論されて言葉を詰まらせる様子を、チェルニーはにやけな笑いを浮かべながら眺めていた。
「悪態を付いたり、笑ったりできるという事は完全に乗り越えたと思って間違えないな?」
「うん、ボクは大丈夫だよ。体が軽く感じるくらいだよ。」
「私も問題ないわ。おかげさまで魔導力が強化された感じがするわ。」
「どっちも着替えた服の効果だと思うが、いいだろ。しかし、ようやっと攻め込む準備が整ったか。」
ルワンは愚痴を漏らすように呟きながら立ち上がると、後片付けを女性陣に任せて伸びをしたり腰を捻ったりして体を解していた。
片付けが終わって返却されたポーチを装着してから、地面に突き立てていた九頭棍を引き抜いた。
引き抜いた勢いをそのまま高々と振り上げると同時に棍が輝きを放ち始め、振り下ろしている間に変形が完了していた。
新しく現れた武器は先端に三日月状をした片刃の斧が付いた柄の長い斧だった。
「バルディッシュだ。」
ティティスが武器の形状を見た瞬間に声を漏らし、チェルニーは新しい武器に気付くやいなやディーナの姿を探し始めていた。
ディーナは別段に隠れていた訳でもなく、チェルニーの頭に座っていたので、探されていると気付いて正面へ出て行った。
「おお、フリフリの可愛い服だ。ちょっと大人っぽくてお姫様みたい。」
「ポニーテールにゴシックのロングドレスとはまた趣味が良いわね。黒い衣装にルビー色の髪の毛が良く似合ってる。」
女性陣が大いに盛り上がっている傍らで、ルワンはバルディッシュを引き摺りながら歩き始めていた。
斧が地面を割る音に気がついて、ディーナが慌てて飛び立ち、その後にチェルニー、ティティスと続いた。
「ちょっと待ってよ。」
「うるさい。こっちは同じ場所を20周もさせられてもう飽き飽きだ。用意ができたのなら速攻で攻める。」
さらりと同じ場所を周回していた事実を知らされて、ティティスとチェルニーは立ち止まって顔を見合わせた。
そんな様子を全く気に留めず、前進していくルワンの背中を再び追い始めた時、2人は不思議と笑顔になっていた。

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