[小説:闇に舞う者] part242011年04月03日 17時57分49秒

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「ルワンの魔素は戦いに対する感情から発生する闘気よ。そして、相手から生み出す闘気を取り込んで初めて魔導力を生み出せるようになるの。」
「戦いに対する感情ってどんなの?」
「例えば、『許さない』や『負けられない』、『絶対に守ってみせる』とかね。ルワンの場合は『強そうな相手でわくわくする』なんてのもあるかも知れないわ。」
例えの台詞に大袈裟な演技も交えながら説明していくと、チェルニーが肩を振るわせながら笑い出した。
「つまり、ルワンは相手の感情を魔素という形で取り込めるの。もちろん闘気に含まれる感情だけね。」
「その取り込んだ感情から相手を知ろうとするのが、神域の対話なんだね。」
「その通りよ。ルワンが自分の想いを乗せた闘気を飛ばして、相手が魔素を介した対話のできる事と気付いてくれたら成功ね。」
「問題はお前等みたいな鈍感な奴が相手だと成り立たない事だ。」
不意に会話へ割り込んできたルワンの声に、ティティスとチェルニーが同時に振り返ると「あ・・」と驚きの声を揃って漏らした。

ルワンは待ちくたびれた呆れ顔で溜息を一つ漏らすと、気を取り直して表情を固めてからチェルニーと向かい合った。
「チェルニー・ウィドール、お前に選択肢を与える。聞くか、聞かないか選べ。」
チェルニーは唐突な突き付けられた選択に困惑して、説明を求めようと口を開き掛けた所にルワンが釘を刺されてしまった。
「質問には応じない。選べ。」
困った顔をティティスへ向けても、優しげな笑顔で見返して来るだけで、質問に答えてくれそうになかった。
自分で考えて選ぶ必要があるのだろうと理解して、目を閉じて3回ほど深呼吸をしてから直感のみで出した答えを告げる。
「聞くよ。」
「そうか、分かった。ティティス、紙とペンを貸してもらえるか?」
ティティスが傍らに置いていた鞄から筆箱とノートを取り出し、空白のページを探している間にルワンも床へ座り込んだ。
ルワンはノートと鉛筆を受け取ると、手早く絵を描き始めて数分と経たない間に、1人の少女の顔立ちを描き上げた。
「この顔に見覚えがあるんじゃないか?」
「ボクの友達のレイチェルに似てる。でも、1年前に村の外へ出ちゃって帰ってきてないのに、なんでお兄ちゃんが知ってるの?」
ルワンから受け取った絵を抱きかかえるようにしながら、寂しそうな目で見上げてくる。
ルワンは目を逸らしたくなる感情を押し殺して、真っ直ぐにチェルニーを見据えた。
「そのレイチェルという子供が、お前を村から逃がした仕掛け人だ。」
その場に存在しない人物に助けられたと言われて意を理解できない様子で、首を傾けて疑問を行動に示す。
「生け贄という言葉を知っているか?」
何か嫌な響きだと感じた様子で、何かを恐れているような不安の色を表情に加えながら、首を左右に振って応えた。
「動物や人を生きたまま神へ捧げる行為、または供え物を指す。つまり、神に願いを叶えてもらうための生き物を殺す事だ。」
ルワンが言葉を切り、目を閉じ、大きく息を吸いながら間をおいてから、重苦しい瞼を押し上げてチェルニーを見据える。
「レイチェルはこの村の結界を司る守り神への生け贄に捧げられ、その魂を今もなお捕らわれ続けている。」
何処かで生き延びている可能性を信じていたらしく、チェルニーの目から大粒の涙が零れだした。

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