[小説:闇に舞う者] part32010年10月11日 18時44分51秒

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気難しい一面があっても、面倒見の良いルワンが今回の話を断ったりしないだろう事をリーゼロッテも分かっているはずだった。
しかし、娘の事が絡んでくると途端に思考がネガティブな方向へ偏ってしまう癖のことを、ミシェルは失念してしまっていた。
結果的に気を紛らわせるつもりで時間の話を振ったのに、全くの逆効果となってしまって、女王は穴が開きそうな鋭い視線で時計を凝視し続け、ミシェルは自分の失言を後悔して溜め息を吐いていた。

時計を射抜く視線の鋭さが増していくにつれて、リーゼロッテ女王の顔色に少しずつ青みが差し始め、その様子を隣で見ていたミシェルの不安も増大する一方だった。
そんな室内を包み込む重たい空気が一変した瞬間は、リーゼロッテが秒針の周回する様子を10回ほど数えた頃だった。
壁掛け時計に注ぎ続けていたリーゼロッテの視線を廊下へと続く扉へ移され、それと同時に感覚を研ぎ澄ましながら、椅子に座したままで身を乗り出した。

女王が行動を起こしてから若干に遅れたが、ミシェルも女王と同じ感触を捉えて、廊下の更に向こう側、城外に広がる魔性の森へと視線を走らせた。
微かに捉えた魔導力の気配は意識を集中させてもなお、見失ってしまう程に微弱であり、待ち人の到着を待ち焦がれていた者達でなければ気付かないほど遠くにあった。
それほどに微弱な気配であっても、刃物のような鋭さの中に何処か暖かみを感じさせる独特な雰囲気から、城へ向かっている魔導力の主がルワンである執務室の二人が理解するまで1秒と掛からなかった。

待ち人の到着にリーゼロッテの表情が明るく晴れ渡り、嬉しさを全面に表した笑みで彩られる様子を目にしながら、ミシェルは肩の荷が下りたと大きく息を吐きながら、全身の緊張が解けていく心地よさに浸っていた。
そんな気の緩んだ二人を威嚇するように、ルワンの魔導力の気配が一瞬だけ膨れ上がったかと、城内を流星の如く突き抜けていった。
微弱な気配を捉えようと集中していた執務室の二人は、目眩ましを喰らったように軽い立ち眩みに襲われていた。

「あいつ、我らの感知範囲を計算してやったのではないだろうな。」
眉間を指先で押さえながら、目眩から立ち直ったばかりのリーゼロッテ女王が呟いた。
「面倒事に巻き込まれた腹いせと考えれば有り得そうな話ですね。何よりタイミングが良すぎます。」
ミシェルは寄り掛かっていた壁から背中を離しながら伝令用の術符を取り出すと、幾つかの伝令を吹き込んでから発動させた。
発動された術符が一瞬で燃え尽きて間もなくに鳴り始めた開門を知らせる鐘の音を聞きながら、リーゼロッテ女王はゆっくりと立ち上がった。

「あの面倒臭がりの事だ。廊下を歩いたりせず、バルコニーへ直接に飛び込むのだろうな。」
「先ほどの魔導力の気配も城門を開けさせるためでしょうし、前例もあります。兵にも道を空けておくよう伝令に含めておきました。」
苦笑混じりに呟きながら立ち上がり、歩き始めた女王の言葉を肯定しながら、ミシェルも後へ続いた執務室を後にした。

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滲む汗 暑さと苦悩 辛かった2010年10月11日 19時51分38秒

もう10月に入っている随分と経っているはずなのだが、強い日差しとPCの廃熱が重なった影響もあって、気が付けば室温が32度を超えるほど暑い日となっていた。
日が暮れてから3時間ほど経過した現時点でも室温が30度もあるため、半袖に短パンという夏の格好をしている始末で、これから季節が冬へ向かおうとしているとは思えなくなってきた。
しかし、先週の帰り道は少し肌寒さを感じた日もあるので、これから暫くの間は空模様によって大きく気温が変動する危険性があり、体調を崩さずに乗り越えられるか不安を感じている。

今週分の小説は前回の連載からの書き出しに3日間も悩んでしまい、今週分の下書きは原稿用紙1枚にも満たないという有様で、目標とする4枚に程遠くて手強いレポートを目の前にした気分でのスタートとなった。
土曜の通院時に待合室で色々と考えていたので、無事に投稿できる程度まで書き上げられたけれど、下手をしたら最初の1文しか用意がないという状況へ陥っていた可能性もある。
連載し続ける上で掲載の区切りを何処へ置くかも十分に考慮しなければ、次回の構想を練る際に苦労すると思い知らされたから、良い経験として今後に活かしていこう。