「目を合わす」 たったそれだけ 何だけど・・・2010年10月09日 20時32分16秒

昔から子供に懐かれやすい性質だと自覚していたのだけど、ここ最近は長期休暇が減っている事に加えて、両親の実家へ帰省する機会が減ってきている、子守りを任される場面も減ってきていた。
今の通勤電車は子供連れの乗客なんて滅多に見当たらないし、大学の頃のように車内で愚図っている赤ん坊をあやすなんて場面もなくて、子供に懐かれるという感覚から随分と遠くなっていた。

今日は耳鼻科の通院予定日となっていたのだけど、朝から雨が降っていた影響もあって少し肌寒さを感じながら病院へ行き、待合室で携帯電話で小説の執筆に勤しんでいた。
俺は入り口から最も近いソファーの一番奥に座っていたのだけど、待合室に人が少なかったために6人掛けの座席に1人きりという状況だった。
その状態で10分ほど過ごした頃に、入り口の自動ドアの向こうから元気な泣き声が聞こえてきて、愚図る子供を抱えた女性が何故に泣いているのか分からないと困った表情で入ってきた。
受付では診察券を出した後に名簿へ名前を記入する必要があるため、手近なソファーへ子供を寝かせて、ササッと済ませて戻ってきたかったらしいのだけど、愚図って暴れる子供から目を離せない様子だった。

俺はそんな場面を横目で見ていたのだけど、不意に何か視線を感じた気がして首を傾けると、愚図っている赤ん坊と目が合った瞬間にピタリと泣き止んで、こちらを凝視したまま固まったように動かなくなった。
その様子を見た母親は「すみません」と言ったが早いか受付へ走ると、診察券と名前記入を終わらせて10秒足らずで戻ってきたのだけど、その間の赤ん坊の様子は「凝固」の一言だった。
時折に口元を緩ませていたりしたから怯えている訳ではなく、何か楽しいことが起きるのではないかと期待して見ている印象で、俺の方へ視線を送り続けていた。

以前から自覚もしていたし、子守りが上手いと褒められた経験は数知れず、親戚連中に至っては子供を押し付けて放任していく始末だった。
子供好きの性分だから別段に悪い気はしないのだけど、親御さんが泣き止ませられずに困っている幼児に対して、目を合わせるだけで落ち着かせてしまった事には自分自身でも驚いてしまう。
思い返してみれば、通勤電車の中でも似たような経験をした事もあるのだが、久しぶりの体験に妙な新鮮みを感じてしまった。