たくさんの 眠る心を 見つけたよ2009年10月18日 21時28分22秒

昨日は風邪と思われる症状に悩まされ、通院から帰ってからはグッタリとしていたのだが、空模様もあまり良くなくて短い間だけど雨音が聞こえていた時間もあって、肌寒さを感じながら過ごしていた。
そんな不調の休日から一夜明けて、今朝は体調も随分と回復していたし、窓から差し込む光が力強くて、昨夜の防寒のため締め切っていた室内は温室のような暖かさに包まれていた。
目覚めも悪くなかったし、朝食を食べようと 1階へ降りていくと、リビングから父親のいる気配が感じられて、どうしようかと悩みながらトイレへ逃げ込んでいると、何かを察したかのようなタイミングで父親が自室へと戻っていった。

そのおかげでリビングを独占して悠々と過ごせる素晴らしい朝となったのだけど、気持ちの良い日に相応しい朝食のメニューが在庫切れで、インスタントのラーメンという寂しい食事となってしまった。
本来なら土曜の内に買い出しをしておく予定が、体調不良により道半ばで力尽きてしまったのだから仕方がないのだけど、やはり無理をしてでも買い物だけ済ませておけば良かったと、後悔が枯れることはなかった。
正直なところインスタントの食事は腹に合わなくて、下手をすると腹を下すことさえもあるから、病み上がりの体調で食べるのは不安だった。

それなら蕎麦や冷や麦という選択肢を選べば良かったのに、何故か頭に全く思い浮かばなくて、気が付けば 2人前のインスタントのラーメンをスープまで飲みきっていた。
スープに関しては飲まない方が良いかも知れないと思ったのだが、昨日に引き続いて強い喉の渇きを感じられて、丼を持ち上げると一気に飲み干してしまっていた。
それでも物足りなくて、スープと紅茶を作るために沸かした湯の残りにまで手を付けて、気が付けば朝だけで 1リットル近い水分を飲んでいた。

朝食の風景を振り返ると、昨日の不調が依然として尾を引いているような気がしてならず、今日も安静にしていようかと思ったのだが、窓から差し込む日差しを見ていると、無性に外へ出掛けたい気持ちになった。
ここ最近は引き籠もっている事が多くて、用事がなければ外へ出ようとしない休日が目立っていたから、日差しの元へ出たいと感じる気分を懐かしくさえ思えた。
体調の心配は拭いきれないけれど、暖かな日和に自室へ引き籠もっているのも勿体なく感じられたから、軽く自転車で明るい空の下を走ってくることにして自室を飛び出した。

本来のサイクリングならクロスバイクを引っ張り出して走り出すのだけど、ここ 1ヶ月ほど整備をしていないため、出発前に色々と準備が必要となるのが鬱陶しくて、今日の通勤用のママチャリを相棒に走り出した。
本日の目標はとにかく休まずにはし続ける事と定め、適当に東へ向かって走り出してみて、何も考えずに走った事のない道を求めて、思い付きだけでハンドルを切っていた。
最初の頃は何処へ行っても見知っているか、何処へ出るか予想できる道が続いて、知らない道なんて早々に見つからない程に走り尽くした地元に少しだけ寂しさを感じた。

そんな道中、高速道路の脇へ入り込む細い道へ進入していく自転車が見えて「あんな所に何があるのか?」と疑問と共に好奇心が沸き上がってきて、後を追うように細い道へ入ってみた。
その道は高速道路の壁が光を遮ってしまうため、酷く薄暗くて何処か位階へ続いているような雰囲気から、少しゾッとする冷たさを感じさせる景色で道があると知らなければ、まず間違えなく立ち入ろうと思わなかっただろう。
つまり、家を出てから探し求めていた知らない道の入り口であり、未知との遭遇を喜んでいたのだけど、如何せん事に前をゆく自転車が物凄く遅くて、好奇心に燃えている俺は軽く苛々とさせられた。

とはいえ、後を追うように進路と共にしている事を気付かれたくなくて、追い越しに斯かる事ができず、適当な所で立ち止まって距離を開けつつ、知らない道を楽しんできた。
進入した先にあったのはテニスコートや釣り堀を有する公園で、背の高い木々が作るトンネルがあったりと長閑な風景だけど、高速道路と鉄道の陸橋から近くて騒音も混じっていて、何とも言えない不思議な雰囲気だった。
それこそ都会の真ん中に決壊を張って作られた隠れ里に迷い込んだような気分で面白かった。

こんな所に公園があったのかと驚かされた後も、色々と見知らぬ場所を探して彷徨っていると、いつの間にか 2つ向こうの市まで迷い込んでいたのだが、そこが何とも言えない不思議な町並みで面白かった。
街作りの実験場だったのかも知れないと考えさせられるほど、綺麗に鴟尾された町並みが何種類も目前に広がって、一瞬で別の場所へ来たような錯覚を感じさせられた。
自転車で走ったりする分には面白くてよいのだけど、住みたいかと言われると全力で拒否したい感じだったな、と笑いながらも目まぐるしく変わる町並みを楽しんできた。

時間を見ずにひたすら走り続けてきた事もあって、体力の計算を全くしていなかったが帰宅ルート考えた方が良さそうだと思い始めると、軽く方向を見失っている事に気が付いた。
珍しいこともあるものだと苦笑しながら情報を拾い集めていくと、県庁の文字が見えてきた所で自分の所在を把握して、軽く額から冷たい汗が噴いたのを感じた。
帰宅ルートが正しく定まった事を示す案内標識に記された地元までの距離は20kmとなっていて、我ながら随分と遠くまで来ていたものだと笑ってしまった。

もちろん笑っていられたのは最初だけで、帰り道に入ってから頃に体力の枯渇から思考が鈍り始めて、明らかに視界が狭くなっていて、風景を楽しむ余裕が随分と少なくなっていた。
その代わりに頭の中で妙なメロディが回っていて、ちょっとした歌を作りながら走っているとか訳の分からない行動に出ていた。
これが才能のある人間だったらメロディを形にできたのだろうけど、生憎と俺にそんな能力はないので、露と消えるだろう歌を必死に組み上げながら、自分を励ましながら体力の尽きたと嘆く足に力を込め続けた。

正直なところ最後の10kmは体力も気力無くして、根性でもなく本能とでも呼べる領域の力で走っていた気がする。
「進め、進め、振り返えらずに、前へ、前へ、ただひたすらに」
自転車を走らせながら頭に浮かんでいた歌詞の一部だけど、ここだけ何十回も口ずさみながら走っていたのだけ覚えているのだけど、細かい記憶は残っていなかったりするから、本当に無心で走っていた感じだ。

記憶がハッキリとし始めたのは自宅まで 1kmの所まで来た最後の長い上り坂を登り切った辺りで、額の汗を拭おうと手を当てるとジャリジャリと埃っぽい感触があって、ゾッとした事で無心から帰ってきた。
最初は汗が塩となったのかと思ったのだけど、どうやら秋の落ち葉が細切れになった物が湿った肌に貼り付いていただけらしい。
それでも量が半端じゃなくて気持ち悪かったので、昨日に予定されていた買い物を済ませるついでに、トイレで顔を表せてもらったのだけど、これが何とも言えないサッパリ感で本当に気持ちが良かった。

久々に出掛けたいと思ってから、知らない道を見つけた時の興奮と好奇心の震え、苦痛の先にあるホッとできる一瞬。
どれもこれも知っているはずで忘れていた感情を一気に取り戻したような気分で、素晴らしい休日だったと思えるのだけど、明日の筋肉痛が少しばかり心配される。
なにせ 1時間程度の軽いサイクリングの予定が、気が付けば 3時間もノンストップで50km以上も走っていたのだから、恐らく酷いことになると今の内から覚悟しているが、悪い気分ではないので良いだろう。

休日の早起きを心掛けてから 1ヶ月も経っていないのに、休暇の過ごし方に変化が現れ始めている事を嬉しく思う。
少しのことでここまで変わるとは想像していなかったから、驚くと同時にもっと早くに取り組んでいれば良かったと思うばかりだ。