類友と 出会って少し 元気付く(4/4)2009年03月30日 06時30分08秒

満開の菜の花にいやしてもらった後に待っていた参上は正に地獄と呼ぶに相応しく強風の洗礼だった。
自宅のある地域は谷間で風が寄り集まることから強風が吹いているのに対して、川越北部は平原で吹きっさらしになっている事に起因する風だから毛色が違って扱いづらかった。
瞬間風速は谷間の風の方が強いけれど、うねりを持っていて常に風向きを変えてくるのに対して、平原の風は同じ方向に絶え間なく引き続けるらしくハンドルを切ると目の前に突風という壁が突然に現れる事になる。
しかも、次に進路を変えるまで延々と押し返されるため、息をつく暇もなく重たくなったペダルを踏み続ける羽目となる。

できる事なら風を受けずに済む方向へ進路を取りたかったのだが、残念なことに目と鼻の先に川があるため進路を選択する余地がなかった。
川さえ渡ってしまえば進路は幾らでも選べるから早く目の前の川を渡ってしまいたくて、最短距離で川沿いの道へ行き着いて最寄りの橋を探そうとした。
そんな思惑を抱えて、強風に前もろくに見られない状態でペダルを踏んでいると目の前の川の土手と思われる緑の生い茂る壁が見えた。
これで強風と真っ向勝負をしないで済む方向へ進路を変えられると喜んだのも束の間で、道に沿って走っていると 2回連続で右折をさせられてしまった。

どうやら馬鹿みたいに大きな袋小路へ入り込んでしまったらしいと理解できたが、戻るしかない道は何処で左折できるのかも分からないほど一直線に伸びていて、その悲しい状況を信じたくなかった。
しかし、世の中というのは残酷なもので、先ほどまで牙を剥いていた強風が追い風になって背中を押してくれているのだから涙が出てきそうだった。
袋小路で Uターンをさせられた時間も含めて30分近く強風と戦った末に、ようやっと平原の風から解放されたのだが、そこからはもう残る体力を必死に計算しながらの走行となった。

走行距離が65kmを越えた辺りから足がガクガクと震えだして、家を出る時に直感で見積もった80kmというリミットが恐ろしく正確であることを理解した。
残る体力で帰宅するためのルートを考えようと思ったのだけど、気が付けば東西南北の順番が分からなくなる程に思考がが鈍っていた。
思い出してみれば、時刻は14時を回っているが家を出てからミネラルウォーターしか口にしていない状態で脳味噌が当分不足の状態になっていた。
そんな状態でも貧乏性だけは立派に残っていて、後60分ほど頑張れば財布を開かずに飯が食べられると自分に言い聞かせて、見えてる飯屋を必死の想いで振り切って走っていた。

そんな事を繰り返している内に思考が別次元へスリップしてしまって、道順を考えず直感だけでズンズンと進んでいた。
時間にして30分くらい、何度となく道を乗り換えながら進んできて自分が何処にいるのか分かっていないのに不思議と自宅へ近づいている自信だけはしっかりと持っていた。
帰巣本能に任せて走り続けていた思考から脱して、理性が前へ出てきたのは足止めされた踏切で右を向いてみたら駅が見えた瞬間だった。
自分が走ってきた方角から考えて、目の前の線路は東武東上線、駅はふじみ野かみずほ台のどちらかだろうと推測された。
どちらの駅なのか分かれば正確な帰り道と自宅までの距離が把握できると喜んでいた。

そんな俺の脇に止まったスクーターに乗った男性が「この駅って、みずほ台ですか?」と俺が聞きたかった質問をしてきたから「俺も分からないんですよ」と返した言葉に自然と笑いが混じってしまった。
声を掛けてきた男性は少し残念そうな顔をしたのだけど、風に揉みくちゃにされた俺の頭なんかを見て何かを感じたのか「自転車、格好いいっすね」なんて言葉を続けてきた。
愛車を誉められて気分が良かったので少しだけ交流を楽しんでみることにした。

声を掛けてきた男性はスクーターで 1時間ほど知らない道を走ってきた、俺と同類の趣味を持つ人物だった。
もちろん自転車とスクーターという違いはあるけれど、彼の言葉に「知らない土地へ行くのって、何か楽しくないっすか」というのが有ったから、足は違えど本質的な部分は同じだと感じたよ。
もっとも俺がかれこれ 3時間以上も走り続けていると伝えたら驚いていたけれど、不気味がるようなことはなくて素直な驚愕にみえて悪い気はしなかった。

踏切が開くまでの 1分少々の時間だったけれど、同族に出会えた事が嬉しくて尽き欠けていた体力が少しばかり回復した気がした。
残念ながらスクーターの男性とは次の交差点で分かれる事になったけれど、この日一番の出会いだった。

そんな出会いと別れから 5分位して、初日の出を見に行く時に通った道へ出ることができてホッとしたのだが、その時点で走行距離は80kmとなっていた。
自宅までは 3kmほど離れていたけれど、倒れ込んだとしても日暮れまで数時間有るので焦りはしなかった。
しかし、帰宅までに避けられない長い登り坂があって、そこだけは死に物狂いといった形相で「あ~」とか「が~」とか叫びながら必死にペダルを踏み込んでいた。
最後の難所を抜けてからも体力作りが目的だからと悲鳴を上げる足を無理矢理に踏み込み続けて、帰宅した時は足が震えて歩いていても違和感を感じる状態となっていた。

しかし、体作りという目的で走り始めたので疲れ果てての帰宅と言っても達成感の方が勝っていたし、何より久しぶりに垣間見た限界の 2文字が何処か懐かしかった。
それに構えることはないと思っていたカメラも使えたし、類友と出会ったりと発見も多くて色々と充実した 1日だった木がする。

走行距離:80.10km
所要時間:3時間49分
最高時速:38.8km/h
平均時速:21.6km/h